大日岳遭難事故とは
2000年3月5日、旧文部省登山研修所の主催する冬山研修会で発生した事故。参加していた溝上国秀さん(当時・神戸大2年)と内藤三恭司さん(当時・東京都立大2年)の2人が死亡した。
現場は富山県北アルプスの大日岳。講師や学生が頂上付近で休憩中に乗っていた雪庇(*)が崩落。これに11人の学生が巻き込まれ、うち溝上さんと内藤さんの2人が行方不明となった。
厳しい天候により捜索は難航。内藤さん、溝上さんが遺体となって発見されたのはそれぞれ同年の5月15日、7月11日のことであった。
この事故に関し主催者である国はその責任を問われた。文部科学省によって事故調査委員会が開かれ報告書が作られたが、遺族らがこの内容に反発。国が十分な説明責任を果たしていないとして2002年3月5日、富山地裁に提訴した。なお2004年6月9日、業務上過失致死容疑で書類送検されていた当時の引率講師2人は不起訴処分になっている。
国に対する判決が降りたのは2006年4月26日。富山地裁は「登山ルートと休憩場所の選定判断には過失があった」と講師らの過失を認め、約1億6700万円の支払いを国に命じたが、国はこの判決を不服とし提訴した。
裁判が終結したのは2007年7月26日。国が事故再発防止のための検討委員会を設置すること、遺族に1億6700万円を支払うことなどを条件に和解が成立(下記詳細)。大日岳遭難事故は裁判上、解決した。(2008年2月7日現在)
*雪庇(せっぴ)…山の稜線の風下側に庇(ひさし)のように突出した雪の吹きだまり。
・和解条項(《カッコ》内、…の部分は編集部)
1 控訴人《国》は被控訴人内藤悟に対し、和解金…の支払い義務があることを認め、これを…支払う。《以下略》
2 控訴人は被控訴人内藤万佐代に対し、和解金…の支払い義務があることを認め、これを…支払う。《以下略》
3 控訴人は被控訴人溝上不二男に対し、和解金…の支払い義務があることを認め、これを…支払う。《以下略》
4 控訴人は被控訴人溝上洋子に対し、和解金…の支払い義務があることを認め、これを…支払う。《以下略》
5 (1)文部科学省は…本件事故に関する事実関係を踏まえ、安全検討会(仮称)を設けて…本件研修会を安全な形で再開することができるか、再開する場合には、安全対策の内容とそれをどう徹底していくかについて、十分検討するものとする。安全検討会(仮称)は幅広い有識者から構成されることとなるよう配慮する。
(2)文部科学省は、安全検討会(仮称)を原則として公開し、安全検討会(仮称)における検討内容を被控訴人らの求めに応じて被控訴人らに報告し、安全検討会(仮称)における検討結果の取りまとめに当たっては…提出された意見を十分考慮しなければならない。公開とする場合においては、被控訴人らが傍聴できるよう配慮する。
6 被控訴人らは、控訴人に対するその余の請求をいずれも放棄する。
7 被控訴人ら及び控訴人は、被控訴人らと控訴人の間に、本件に関し、本条項に定めるもののほか、なんらの債権債務のないことを相互に確認する。
8 訴訟費用は…各自の負担とする。