緊急連載 大学から震災の灯は消えたか 第14回
継続に希望見い出す 震災見つめ続けるメディア |
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被災地以外に住んでいた人に話を聞くと、「あの映像を通して震災のすごさを知った」という声も多い。 「震災」のイメージを作るうえで、メディアの果たした役割は計り知れない。一方で、「震災の風化」を伝えはじめたのもまたメディアだった。 被災地へ、そして全国へ発信される震災報道は、今後なにを伝えていくのか。 ○ ○
「(震災後数日は)次々に入ってくる情報に、整理も十分にできないけど、手当たり次第、放送を続けた」。神戸・ポートアイランドに本社を持つサンテレビジョン。入社以来、報道部で活動を続けてきた浮田信明さん(46)はそう振り返る。 サンテレビでは、95年の10月から2000年まで、「震災特集」と題した特集番組を毎月放送してきた。仮設住宅や公的支援の問題など、震災で浮き彫りになった社会制度を扱ったり、遺族たちの声や動きを伝えた。 忘れられない取材がある。震災で、当時神戸大生だった息子を亡くした父親にインタビューしたときのこと。新聞社に就職が内定していた故人の話に、父親は「(取材をしている)あなたたちの姿が息子に重なる」と答えた。 浮田さんは声が出なかった。何も聞けずに帰ってきた取材は、後にも先にもそれきりだった。 「遺族の語る震災は違う」と浮田さん。震災がもたらした悲しみの深さを実感した取材だった。 一方で、被災者や遺族が伝えるものは悲しみだけではない、と浮田さんは感じている。「震災特集」でも、遺族同士の交流などの動きを取り上げて、生きることに前向きな姿も伝えている。「心が立ち直るとはどういうことか、前向きな生のかたちが感じられる」。 この思いは、NHK神戸放送局のアナウンサー・井上二郎さん(29)も同じだ。今年4月から始まったニュース番組でキャスターを務める。毎週月曜日に、「震災メッセージ」というコーナーで、遺族をはじめ震災についてさまざまな人々にインタビューを行っている。 「(遺族の人は)いかに生きるかについて真剣。『死』を語りながら、『生きること』を発信している」と井上さん。安易にはできないという重圧はあるが、一言一言を受け止め続けている。 毎日放送ラジオが放送している毎週土曜日の「ネットワーク1・17」。震災の起こった95年4月から始まり、いまも週一回の放送が続いている。 番組では、防災情報などとともに、震災に関わるゲストを招いてそれぞれの思いを放送。遺族たちにも話を聞いてきた。ただ、番組チーフディレクターの田中智佐子さん(35)は、取材を通して遺族の悲しみを癒せるとは思っていない。「私たちにできるのは、(遺族の)話を聞くことだけ。癒すという態度はメディアのごう慢」と話す。 8年以上続いてきた「ネットワーク1・17」だが、番組の改編期が来るたびに、社内では存続に疑問を投げかける声が起こっていた。しかし、「被災地の現状や人も変わってきて、伝えることが尽きない」とディレクターの河野多美子さん(28)。逆風はあるが、「次の災害」に備えるため、情報発信を絶やさないのが番組の目標だ。 ○ ○
5月に神戸で起きた希望の灯り損壊の事件は、それぞれに衝撃だった。 「伝わってなかったことに、無力感、喪失感を感じた」とNHKの井上さん。サンテレビの浮田さんは、「(大学生が名乗り出たのは)救いではなく、もっと重大な問題を突きつけた」と感じた。若い世代への語り継ぎの難しさを実感した事件だった。 ただ、NHKの井上さんは、今年の1月17日に一つの「希望」を体験した。あるニュース映像で、震災で友人を亡くした中学生の女の子がインタビューに答えていた。 「生きてたら一緒に遊べたのに…」。 今も真剣に命について考えている女の子の姿に感心した。 「若い人には(震災の記憶が)伝わってないと一面的に思っていたけど、実際は伝わるんだと、希望を見た」と井上さん。「震災に触れる、考える『場』を、報道などを通して作り続けることで、伝わると思う」。 「モニュメントや社会制度など、形として将来に残るものを通して、(若い世代に)伝わるのでは」とサンテレビの浮田さん。「震災メッセージ」を続けるNHKの井上さんは、「こういうことを、愚直に継続していくしかない」と話す。 「忘れるというのは人間の智恵」と話すのは、毎日放送の田中さん。「でも、ちょっとずつでも言い続けることによって、思い出すことが必要」と切り返す。 田中さんが「もう一つは、――」と付け足して話し出したのは、戦時中の上の動物園の話。戦争のために殺された動物たちの物語は、いまも多くの子供たちに語り継がれている。 「子供たちがみんな共感できるような物語を作ることが必要だと思います」。これも、次世代への語り継ぎの一つの方法だ。 【震災取材班 植中喬光、岩崎昂志】
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