緊急連載 大学から震災の灯は消えたか 第24回

震災見つめ直す
震災語る研究者たち<下>
 
 地下水可視化装置、免震構造を説明した模型、液状化を再現する振動台、地盤強度の測定器。10月25日、26日一般に解放された都市安全研究センターの実験棟には、実験設備がずらりと並ぶ。センターを訪れた子供たちが、大きな音をたてて揺れる振動台を興味深そうに見ている。都市地盤環境研究チーム の助手を務める斉藤雅彦さんはいう。「地域との交流するいい機会になれば」

 同センター内にある研究棟では、石橋克彦・都市安全研究センター教授を講師に、○×のクイズ形式での講演会が開かれた。「阪神・淡路大震災の余震はまだ続いている。○か×か」と石橋克彦が質問すると、ほとんどが「×」と答えた。答えが「○」と分かると、「そうなのか」と驚いたような表情を浮かべる人もいる。

 センターの一般解放は、震災が残した教訓、研究結果を地域住民と共有しようという取り組み。石橋教授は著書「阪神・淡路大震災の教訓」(岩波ブックレット)の中で、地域の人同士のつながりがいかに貧弱なものであったかが震災で露呈したと指摘している。

 「大学での震災の語り継ぎを絶やさぬためには、地域コミュニティーとの連携が欠かせない」。そう話すのは、歴史・文化的見地から社会学を研究する、岩崎信彦教授。
 「今でも、震災の傷は癒えていない思う。学生にその事実が伝わりさえすれば、関心を持つはずだ。だから大学が地域と連携し、震災を共有化していくことが大事」と岩崎教授。「遠回りかもしれないが、それしかない」という。

 震災の年の3月、岩崎教授は文学部の大学院生らとともに神戸市の避難所をすべてまわり、聞き取り調査を行った。調査を通し感じたのは、幹線道路開発など見た目の復興は進んでいても、被災者一人ひとりの、心の復興には至っていないということを痛感した。心の復興には、文化的に震災をもう一度見つめなおすことの必要性を感じた。

 「自分のやっている学問が、少しでも社会の役に立てばという気持ちがある。みんなが困っている時に、役に立たない学問ではどうしようもないでしょう」。そんな思いが、岩崎教授を突き動かした。今もその気持ちに変わりはない

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 震災犠牲者一人ひとりを記録し、震災の事実を後世に伝える「犠牲者聞き語り調査」が室崎益輝・都市安全研究センター教授、塩崎賢明・工学部教授らの手によって進められている。聞き語り調査を行う中心は、工学部の大学院生ら研究員。しかし教授自ら、遺族のヒアリングを行うこともある。被災地を歩き、遺族一人ひとりの話を聞く。地道な作業の積み重ね。聞き語り調査を行った犠牲者は、300人を超える。

 「統計をとるだけでなく、犠牲者の被災当時の状況、死にいたったプロセスを詳細に記した記録が必要。記録がなければ、振り返ることもできないでしょう」と塩崎教授は言う。記録を自分の研究に活かしたいというよりも、後生に残していかねばならないという責任感のほうが強い。 

 その聞き語り調査も必ずしもうまく進んでいるわけではない。大学でも震災が風化し、聞き語り調査に積極的に取り組もうとする学生も減った。学生は、震災当時小学生か中学生。しかも神戸大のような総合大学には、全国から多くの学生が集まる。
 震災の風化の背景にはそういった事情がある。しかし「何も知らない学生に震災を伝えることができてこそ、長く語り継がれることになる」と室崎教授はいう。その意味で、今の教育が十分ではないと、室崎教授自身感じている。「神戸の大学に来ながら、震災について何も触れぬまま、卒業していってしまうのは、あまりに悲しい」と室崎教授。

 風化はとめられないのか。
 2000年から、講義で震災を扱う「都市安全と防災」をテーマにした総合教養科目が開講した。履修した学生を見てみると、文科系の、経済、経営、法学部の学生が8割を占める。今までは、震災は「地震学」の一つとして、理系の学生が学ぶ場合が多かった。教養科目に震災を取り入れるのは、全国でも初めて。背景には、風化への危機感がある。
 室崎教授は「教養としてのみでなく、必須科目としても今後考えていくべき」という。

【震災取材班 福田公則】

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