柄谷友香さんは今春オープンした阪神・淡路大震災記念・人と未来の防災センターの専任研究員を務め、災害の社会的影響などを主に研究している。
震災当時は関大工学部土木工学科の4年生。体調を崩し尼崎市内の病院に入院中だった。病院が半壊するほどの強いゆれであったが、自身に怪我はなく、家族も全員無事。しかし、混乱する病院の仕事を手伝うなか、目の前で多くの人々が亡くなるのを見た。 「動ける自分が仕事を手伝うのは当然、求められるがまま働いた」。しかし、病気で外にはでられない。3月の退院まで、病院の窓から、被災し復興していく神戸の町を見ていた。「今外に出て助けられないけど、いつかきっとこの気持ちを返したい」そう思った。 関大を卒業し同大学の修士課程を修了、「災害の研究がしたい」と猛勉強をして、それまでしていた海岸の研究とは全く畑違いの京大防災研究所工学研究科に進んだ。「外力から構造物を守る」といった点に重きが置かれている防災研究の中で、「被害は必ず発生するもの」ととらえ、災害後の社会に目を向ける。 「復興したといって、どんな立派な建物が完成しても、心理的、経済的に苦しんでいる人はいっぱいいる」と研究の中心は人。それも、1日1度はセンターの展示室に行き、見学者と話したり、子供の参加する「防災探偵団」を企画するなど、論文だけではなく実際に人とふれあうことで災害を考え、教える異色の研究者である。 入院中に体験した震災は、病気と重なった「ダブルパンチ」だった。強いと思っていた自分の弱さを知り、同時に周りの人にどれだけ支えられているかということを知った。「震災があったからこそ今の自分がいる」。人中心の研究もその経験からきているようだ。 近い将来発生が予測される東海大地震などにむけ研究を続ける。震災を経験した一人として「人材育成が使命だと考えている」。 |