あの阪神大震災から5年が経ち、
人々の頭からすっかり忘れ去られてしまったような今日この頃だが、
実際に体験した人の心には一生残っていくものだろう。
この本を読んで、記述と自分の体験が重なり合って、
次から次へと鮮明な映像や感覚がよみがえってきた。
忘れようと思っても忘れられない強烈な印象である。
しかし、やはりそれは私が経験した範囲のものでしかない。
地震直後からの様々な情報により、
各地で悲惨な状況になっていることは知っていたが、
他人事として見ていたかもしれない。
私の場合、食料の買い出しや水汲みの行列など、
その後かなり大変な生活を強いられたが、
自分の身内や知人に死傷者が出なかったこともあり、
「たいした被害がなくてよかった」
というところで終っていたことに気づかされた。
恐らくそういう人も多いだろうと思うが、
実際には心に深い傷を負った人がたくさんいるのである。
人それぞれに阪神大震災に対する思いが違うのは事実である。
しかし、あの時、地震に遭遇した人には心の中に、
言葉には出来ない何か共通の思いというものがある筈である。
人と人の心のつながり、
協力がいかに大事かも身をもって知ったはずである。
そういったことを多くの人に伝えなければいけないという
著者の思いは同感である。
また、著者がくり返し書いている
「あの時もっと何か出来なかったか。もっと良い方法はなかったか。」
という言葉は耳に痛い。
実際あの時、自分としては結構いろいろ動き回って
大変だったという思いを持っているが、
周囲の人にもっと何か出来たのではないかといわれると、その様にも思えてくる。
しかしながら、今となっては当時に戻るわけにはいかないので、
今後の課題として重要なのは、
この記憶を風化させないことだと思う。
そして、本書にあるとおり、その現場に居合わせた人だからこそ、
伝えられることを確実に伝え続けなくてはいけない。
そのためには、自分の経験だけで物を言うのではなく、
全体像を正しく理解しておく必要があるだろう。
その点、本書は阪神大震災のいろんな面が
コンパクトにまとめられていて、わかりやすかった。
また、中に収められている手記を読むと涙が出そうになる。
どの手記にもさりげない言葉の中に、
その人に対する思いがあふれていて感動的である。
こういう文章を若いうちに読ませることは大事だと思う。
そして平和になれすぎた日本人にとって、
危機管理意識を持つことの重要性も強調されていたが、
机上の学問ではなく、実際に「使える学問」として、
教育現場でもとり上げるべき問題だと思う。
「命の大切さ」をどう教えるかということ、また、
「ボランティアの重要性」なども最近クローズアップされてきているが、
阪神大震災はそれらをすべて含んだ
貴重な体験教材であるということを改めて実感した。
震災直後には生々しすぎて使えないと思っていたが、
だんだん忘れ去られていくような状況の中で、
今こそしっかりと取り上げるべきだと思った。
そういう意味で、この本は良いテキストだと思う。
個人的には報道現場の様子もうかがえて興味深かった。
<2000年3月28日/手紙で>
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研究せねばならない問題まだ多い
神戸市 高橋 眞一 (神戸大学経済学部教授)
関西方面に旅行する時には必ずと言ってよいほど神戸からの船を利用していましたので、家族づれで三宮をぶらぶらした思い出があり、「8章心の傷を乗り越えて●街を失った悲しみ」(p.70)に出てくる住田さんのお母さんがしばらくは三宮へ行きたがらなかったという気持ちが(思い入れの深さは違いますが)分かります。あの、おしゃれな街がむざんな姿になってしまったわけですから。
「6章語り継ぐこと●どうしたら人の痛みを分かちあえるか」で住田さんが広島についてどのように番組を作り上げて行こうかと苦労された部分や「8章心の傷を乗り越えて●私にとっての1月17日」で住田さんが自責の念に襲われる部分が、p.24の工学部3年坂本君の「もうええから逃げてくれ」という言葉と重なって、自分自身が直接タッチした問題でもないのに苦しくなって思わず本を閉じてしまいました。
しかし、表紙を閉じてしばし「亡くなった友人の冥福を祈る」カラー写真を見ていますと涙が出てきて、人の死というものの「重さ」が感じられて……。
「はじめに」は黒磯で起こった中学生による殺傷事件のことから始まっています。住田さんのこの本は、阪神大震災についての本なのですが、読んでいくと、自然にこのような殺傷事件が二度と起こらないようにする為にはなにが必要なのかを教えてくれています。教育者として教えられる所が一杯ありました。
現在マンションに住んでいますが、防火責任者の方には是非毎年読んで行ってもらいたいと回覧に出すことにしました。ちなみに当方は昨年度の防火責任者だったので、消防署で講習を受けたのですが、「ある事業所では、決められた責任者を選定していない上に防火訓練をしていなかったから懲役何年になった」などという話を2日も聞かされました。その中で、肝心の地震についての注意事項はなにもないに等しいものでした(起振車には乗せられましたが)。
各章の最後に上げてある参考図書・資料には、貴重な文献や webのサイト情報がたくさん載せられているので、自分の許す範囲で本は購入し、webのサイトの方は Book Markしておいて、特に大切だと判断したらリンクの許可をもらって、当方の研究室の HPからもリンクを張っておきたいと考えています。とにかく、伝えてゆくことが大切なのですから。<1999年7月7日/メール>
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総合的学習の教材になる
匿名希望 (神奈川県 市立中学校教頭)