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地震防災をテーマにした神奈川県立西湘高校の《調べ学習》Part2



 ここには、神奈川県の「地震被害想定調査」の報告書を転載します。小田原近郊に住む人たちは、何に備えるべきかの基本的な事が書かれているからです。
 もちろん、地震がくるとこのとおりになるというわけではありません。同じ想定でも、被害はもっと大きくなるかも知れません。想定以上のものが襲ってくるかもしれません。でも、一応のめやすにはなると思います。
 みなさんの住んでいる地域では、どんな地震を想定した調査が行われているのでしょうか。ハザードマップといって、地図の上に被害の度合いを色分けしたものをつくっている自治体もあります。調べてみてみてはいかがでしょう。



【付録】神奈川県地震被害想定調査報告書 概要版(平成11年3月)


《想定条件》

 想定条件は、これまでの地震被害想定調査と同じ条件ですが、発生時間については午後5時から、午後6時に変更しています。
 これは、防災関係機関が初動体制を取りにくく、交通機関や繁華街に滞留している人が多い時間を設定し、より厳しい想定条件としたものです。
 (1)季  節=冬
 (2) 日  =平日
 (3)発生時間=午後6時
 (4)天  候=晴れ
 (5)風  速=3m/s
 (6)風  向=北西

《想定地震》

今回の被害想定調査では、
 (1)地震発生の切迫性が高いと考えられるもの
 (2)危機管理的視点から対応を検討しておく必要性が高いもの
 (3)甚大な被害が県全域に及ぶ可能性があり、長期的なまちづくりが求められるもの
という観点から、次の5つの地震を想定しました。

1.東海地震

駿河トラフを震源域とするマグニチュード8クラスの地震。大規模地震対策特別措置法で発生の予知が可能とされている地震で、その発生の切迫性が指摘されています。

2.南関東地震

相模トラフを震源域とするマグニチュード7.9クラスの地震。1923年の南関東大地震の再来型で、今後100年から200年先には地震の発生が高いとされ、地震に強いまちづくりの目標とすべき地震です。

3.神奈川県西部地震

神奈川県西部を震源域とするマグニチュード7クラスの地震。南関東地域直下の地震の一タイプとして、地震発生の切迫性が指摘されています。

4.神奈川県東部地震

県庁直下を震源域とするマグニチュード7クラスの地震。蓋然性のある地震モデルではないが、南関東地域直下の地震の一タイプとして危機管理的に想定した地震です。

※この地震については、中央防災会議の「南関東地域直下の地震対策に関する大網」で検討されたフィリピン海プレート境界面で発生する地震のうち、今回新たに、県庁直下の震源断層として上端の深さが20km、長さ20km、幅10kmを想定したものである。

5.(参考)神縄・国府津断層帯地震

同断層帯とその海域延長部を震源域とするマグニチュード8クラスの地震。現在を含む今後数100年以内に発生する可能性があるとされている地震で、地震学上未解明な点が多いことから地震モデルが示されていないため、今回、本委員会として、仮の地震モデルを独自に設定したものです。

※この断層帯を震源とする地震については、国の地震調査研究推進本部から発表されたものであり、この報告書では、1923年(大正12年)に発生した南関東地震の震源域がこの断層帯の直下まで伸びており、想定されるような「大きな地震がこの断層帯から単独で起きるか、大正型地震の発生によってその時にだけ(従属的に)起きるのかは、議論のあるところである。」とされている。前者であれば、上記のような結論となるが、後者のように従属的に発生すると考えれば、「今後数10年以内に発生する可能性はむしろ低いということになる。」とされている。報告書では、「必ずしも十分な質・量の調査資料があるとはいえず、その将来の活動を評価するうえでも限界がある。」とされ、今後、調査を充実させる必要があるとしている。



《被害想定結果》

1.東海地震

<震度>
全県において震度5弱以上の揺れが想定され、特に東海地震に係る地震防災強化地域(以下、強化地域という。)では、震度6弱以上の揺れが想定されます。

<被害>
全県に及ぶと想定されますが、強化地域の被害が大きいものと想定されます。ただし、静岡県の被害が大きく、それに比較すると被害量及びその程度は低いと想定されます。

<液状化>
横浜市、川崎市、湘南地域の海岸沿いと多摩川、相模川、酒匂川の流域では液状化発生の可能性があると想定されます。

<建物>
木造建築物の大破率は、強化地域の市町では、高いところで約5%、低いところで1%未満となり、全県平均は約1%と想定されます。

<津波>
地震発生約30分後に第1波の到達が想定されます。海岸での避難は、津波警報発表後に対応した場合であっても、問題ないものと想定されます。津波の高さは、最大であっても、約3m程度で市街地への浸透は想定されません。

<崖崩れ>
県内で約410箇所発生すると想定され、崖崩れによる建物被害は、約70棟と想定されます。

<火災>
全県で約120件発生すると想定され、住民、自主防災組織、消防団による初期消火、公設消防組織による組織的な消火活動により、ほとんどの市町村では、消化されますが、強化地域内の一部の市町の密集市街地で数件の延焼火災が想定されます。

<救出>
建物倒壊等から救出を要する現場の数は、全県で約5,400箇所発生することが想定され、特に、消防、警察、自衛隊の部隊が対応する必要がある現場の数は、約610箇所想定されます。そのうち、難度の高い救出現場は、強化地域内の市町にほぼ限られると想定されます。

<人的被害>
警戒宣言発令があった場合には、最小限に押さえることができると想定されますが、突発的に発生した場合、約230名の死者、約7,200名の負傷者の発生が想定されます。負傷者のうち緊急手術や入院加療を要する重症者は、約1,200名と想定されます。

<避難>
避難所への避難者は、全県で発生して、約32,000人が想定されます。

<物資>
飲料水、食糧、生活必需物資は、備蓄によりほぼ確保されています。

<災害弱者>
被災する障害者、高齢者などの災害弱者は、全県で約14,000人が想定されます。

<道路>県西部で一部通行が制限される程度と想定されます。


※神奈川県における地震防災対策強化地域は、県西部地域を中心とする8市11町。
(平塚市、小田原市、茅ヶ崎市、秦野市、厚木市、伊勢原市、海老名市、南足柄市、
寒川町、大磯町、二宮町、中井町、大井町、松田町、山北町、開成町、箱根町、真鶴
町、湯河原町)



2.南関東地震

<震度>
全県において震度5強以上の揺れが想定され、特に酒匂川、相模川等河川流域の沖積平野を中心に震度7の地域が発生することが想定されます。また、横浜市、川崎市にも震度6強の揺れが想定されます。

<被害>
全県に及ぶと想定されますが、沖積平野や人口密集地域が中心となると想定されます。

<液状化>
横浜市、川崎市、湘南地域の海岸沿いと相模川、酒匂川の流域で液状化発生の可能性が高いと想定され、多摩川の流域でも液状化発生の可能性があると想定されます。

<建物>
木造建築物の大破率は、県内平均で約17%と想定され、高いところで約50%を超え、30%を超える市町村は、横浜市金沢区、横須賀市、平塚市、鎌倉市、小田原市、逗子市、三浦市、南足柄市、葉山町、寒川町、二宮町、大井町と想定されます。

<津波>
地震発生直後に第1波の到達が想定されます。海岸では、津波警報の発表が間に合わず、季節によっては、多数の遭難者が想定されます。津波の高さは、最大で、真鶴半島付近と三浦半島南西岸付近で5〜6m程度、相模湾で平均2〜3程度の津波が想定され、浸水想定地域として、湯河原町、真鶴町、湘南地域、横須賀三浦地域が想定されます。

<崖崩れ>
県内で約2,000箇所発生すると想定され、崖崩れによる建物被害は、約450棟と想定されます。土石流の発生も想定されます。

<火災>
全県で約990件と想定され、住民、自主防災組織、消防団による初期消火、公設消防組織による組織的な消火活動を行いますが、延焼に拡大する火災が約250件発生することが想定されます。焼失率は、全県で約13%に及ぶと想定されます。

<救出>
建物倒壊、崖崩れ等から救出を要する現場の数は、全県で約164,000箇所発生することが想定され、特に、消防、警察、自衛隊の部隊が対応する必要がある現場の数は、約44,000箇所以上と想定されます。

<人的被害>
約16,000名の死者、約65,000名の負傷者の発生が想定されされます。負傷者のうち緊急手術や入院加療を要する重傷者は、約6,400名と想定されます。

<避難>
避難所への避難者は、全県で発生して、約1,100,000人が想定されます。

<物資>
飲料水は、地震発生後1日目までは何とか確保されますが、2日以降は、不足し始めることが想定されます。また、食糧、生活必需品物資は、当初から不足することが想定されます。

<災害弱者>
被災する災害弱者は、全県で約250,000人が想定されます。

<道路>
全県で被災し、耐震化が終了している緊急交通路は確保されますが、無被害又は軽微なものについては、緊急車両専用として使用されるため、交通規制により渋滞することが想定されます。



3.神奈川県西部地震

<震度>
小田原市、箱根町、真鶴町、湯河原町を中心に震度6強以上の揺れが想定されます。また、県西部(平塚市、伊勢原市以西)でも震度6弱が想定され、県西部の山地や相模川伊東では震度5以下の揺れが想定されます。

<被害>
県西部に集中し、県東部では被害がほとんど発生しないと想定されます。

<液状化>
酒匂川、相模川の流域で液状化発生の可能性が高いと想定されます。

<建物>
木造建築物の大破率は、県内平均で約1.6%と想定され、小田原市では約13%、真鶴町、湯河原町では約26〜32%と想定されます。このほか、比較的被害が大きいのは、秦野市、南足柄市、中井町、大井町、松田町と想定されます。

<津波>
相模湾の西部では地震発生直後に、三浦半島や湘南地域で10〜20分後に第1波の到達が想定されます。海岸では、津波警報の発表が間に合わず、季節によっては、多数の遭難者が想定されます。津波の高さは、最大で、真鶴半島付近と三浦半島西岸付近で3〜4m程度、その他相模川河口で約3m、相模湾で平均2m程度の津波が想定され、浸水想定地域として、湯河原町、真鶴町、湘南地域、横須賀三浦地域が想定されます。

<崖崩れ>
県内でやく990箇所発生すると想定され、崖崩れによる建物被害は、約180棟と想定されます。

<火災>
全県で約120件発生すると想定され、うち約40件が延焼火災となることが想定されます。延焼火災の被害が大きいのは、小田原市、秦野市、湯河原町が想定されます。

<救出>
建物倒壊、崖崩れ等から救出を要する現場の数は、全県で約12,000箇所発生することが想定され、特に、消防、警察、自衛隊の部隊が対応する必要がある現場の数は、約2,300箇所と想定されます。

<人的被害>
全県で約600名の死者、約5,100名の負傷者の発生が想定されます。負傷者のうち緊急手術や入院加療を要する重傷者は、約670名と想定されます。

<避難>
避難所への避難者は、全県で発生して、約41,000人が想定されます。また、通勤、通学、買い物客等の帰宅困難者は、約16,000人と想定されます。なお、観光客の帰宅困難者は、最大約127,000人が発生することが想定されます。


<物資>
飲料水、食糧、備蓄により発災当初から数日間は、確保出来ると想定されますが、生活必需物資は、2日目以降不足気味になると想定されます。

<災害弱者>
被災する災害弱者は、全県で約14,000人が想定されます。

<道路>
道路のうち緊急輸送路については、小田原市周辺で通行止めとなる箇所が発生するほか、多くの路線において崖崩れによる通行止めの箇所が発生し、西湘地域に孤立地区が発生することが想定されます。



4.神奈川県東部地震

<震度>
県の中央部から東部にかけて震度5強以上の揺れが想定されます。横浜市、川崎市では、震度6強以上の揺れが想定され、特に県庁周辺では、震度7が想定されるほか、湘南地域、県央地域の一部で震度6強が想定されます。

<被害>
西湘地域、足柄上地域と津久井地域の一部を除き、県内の七割程度の地域に及ぶと想定されます。東京都側にも被害が想定されます。

<液状化>
横浜市、川崎市、湘南地域の海岸沿いと多摩川、相模川の流域で液状化発生の可能性が高いと想定され、酒匂川の流域でも液状化発生の可能性があると想定されます。

<建物>
木造建築物の大破率は、県内平均で約4.5%と想定され、特に被害が大きい横浜市、川崎市では、それぞれ約5.7%、約7.7%と想定されます。また、横須賀三浦地域、湘南地域及び県央地域の一部でも被害が大きく約4〜8%と想定されます。

<津波>
発生しません。

<崖崩れ>
県内で約1,200箇所発生すると想定され、崖崩れによる建物被害は、約300棟と想定されます。

<火災>
全県で約430件発生すると想定され、うち、約110件が延焼火災となることが想定されます。延焼火災の被害が大きいのは、横浜市、川崎市、横須賀市、藤沢市、茅ヶ崎市と想定されます。

<救出>
建物倒壊、崖崩れ等から救出を要する現場の数は、全県で約90,000箇所発生することが想定され、特に、消防、警察、自衛隊の部隊が対応する必要がある現場の数は、約9,300箇所と想定されます。

<人的被害>
全県で約2,700名の死者、約23,000名の負傷者の発生が想定されます。負傷者のうち緊急手術や入院加療を要する重傷者は、約2,900名と想定されます。

<避難>
避難所への避難者は、全県で発生し、約620,000人が想定されます。また、通勤、通学、買い物客等の帰宅困難者は、880,000人以上が想定されます。

<物資>
飲料水、食糧、生活必需物資は、備蓄により発災当日は、何とかまかなえる状況が想定されますが、2日目以降は、食糧が不足してくる市町村が出始めると想定されます。

<災害弱者>
被災する災害弱者は、全県で約120,000人と想定されます。

<道路>
道路のうち緊急輸送路については、横浜市、川崎市内では、数カ所被害が発生し、通行止めになる場合が想定されます。また、道路の一部に支障が発生し、通行が制限される箇所が多数想定されます。さらに、崖崩れにより通行止めとなる箇所が、横須賀三浦地域、県央地域等横浜市、川崎市の周辺地域で発生すると想定されます。

<コンビナート>
石油コンビナート地域は、一部で危険物の漏洩はあるものの、自衛隊防災組織及び共同防災組織が対応することによって、地域外への影響はほとんどないと想定されます。



5.(参考)神縄・国府津—松田断層帯地震

 この地震は、平成9年8月に国の地震調査研究推進本部から「現在を含む今後数100 年以内に発生する可能性がある。」という発表があったことを受け、調査を実施したものです。
 同発表では、具体的な地震モデルについては示されていないため、調査の実施に当たって、本委員会に「神縄・国府津—松田断層帯地震モデル検討ワーキング・グループ」を設置し、地震モデルの検討を行い、仮の地震モデルを設定しました。しかしながら、本断層帯の深部構造、近接して発生する南関東地震との関係、海域延長部の形状など、地震学上未解明な点が多い中で、本委員会が、仮の地震モデルを独自に設定し、試算したものであり、調査結果は、あくまで参考としてとりまとめたものです。今回、設定した仮に地震モデルは、同断層帯とその海域延長部を震源とするマグニチュード8クラスの活断層タイプの地震であり、歴史的に見ると、1891年(明治24年)の濃尾地震以降、このタイプの地震は発生していません。したがって、調査を実施する際に使用する想定手法の適用性を経験的に検証する方法がなく、その想定における誤差は、一次被害、二次被害の想定を実施していく段階ごとに大きくなるため、延焼火災、延焼火災による死傷者、ライフラインの被害等の想定は、今回の調査の対象外とし、一次被害を中心に、被害のイメージを把握したものです。
 神奈川県は、国に対して、本断層帯についての調査の実施と積極的かつ重点的な地震防災対策を講じることを要望していますが、本委員会としても、国をはじめ、多くの研究者の方々に、この地震の研究を進めていただくことを期待します。
 
[被害の特徴]
 ア南関東地震を上回る本県最大の激甚災害になる可能性があります。
 イ県内全域で震度6強以上の揺れが想定されます。
 ウ大規模な土砂災害の発生が想定されます。
 エ断層を跨いでいる新幹線や高速道路などの構造物に被害を発生させることが想定されます。
 オ大きな津波が発生する可能性があります。
 カ長周期の地震動*が発生する可能性があり、長大構造物に被害を発生させる可能性があります。