地震防災をテーマにした神奈川県立西湘高校の《調べ学習》Part2
3)避難生活サバイバル もいちどチェック!
せっかく助かった命をどのように守るか
地震発生後、ようやく避難所におちついて…。とりあえず、被災直後は、学校や公民館に身をよせることになる。仮設住宅が建設されたり、自宅に電気などが復旧するまでのあいだ、暑さ寒さをどうしのぐかが勝負だ。余震の不安のなか、せっかく助かった命をどのように守っていくか。避難生活の知恵を考えてみよう。キャンプやアウトドアの達人、神奈川県総合防災センターの杉山考・企画運営課副主幹に取材した内容を中心にまとめました。(担当=穂坂奈緒子、大島美帆、中戸川かおり)
■衣…暑さ寒さをしのぐ工夫!
■食…不便な中でもおいしく食べよう!
■住…アイデア次第で快適に住む!
■医…できる処置は自分達で!
■暮…通学、通勤、買い物を便利に!
【写真右】避難所では、多くの人との集団生活。電気やガスも自由には使えない。(1995年1月27日 神戸大学国際文化学部体育館で 神戸大学ニュースネット委員会提供)
《衣…暑さ寒さをしのぐ工夫!》
・ビニールシートはテントの代わりや風よけなどの多種多様に使えるので便利である。
・布団が無い場合はロールマットやダンボール、枯れ葉を集めたものを敷くだけでも暖かさが違う。
・防寒具として地肌に黒いビニール袋や新聞紙を切ったものを着て、その上に洋服を重ね着すると、とても暖かいので役に立つ。
・衣替えの時に不要になった衣類をビニールに入れ、外の倉庫等に保管しておく。
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《食…不便な中でもおいしく食べよう!》
とりあえずどんな食品を持ち出せばいいの?
非常食にはいろいろなものがある。・乾パン!?・・・非常食として知られている乾パンの保存期間は3年。乾パンがあれば大丈夫だと思われているが、一概にそうだとも言い切れない。乾パンが食べられるのは、健常者であり、赤ちゃんがいる家やお年寄りがいる家は、それぞれに合った物を用意しておかなければならないのである。非常食の中でおすすめなのは、フリーズドライ食品(ドライフーズ:宇宙食)である。保存期間は25年。フリーズドライは、お湯をかけるだけで食べることができる。しかし、フリーズドライ食品は、アルミの備蓄倉庫だと高温多湿のため10年しかもたない。その辺を承知しておいて、新旧回転させて使用する。また、フリーズドライのほかにも、米やおかずの缶詰、ミネラル水、レトルト食品などを日頃から用意しておく必要がある。ちなみに、小田原市は、非常食だった乾パン(3年)を、もっと保存期間の長いクラッカーに変えた。何よりもまず、最低でも3日分の食糧は用意しておこう。
[すぐたべられるもの]
・チョコレート、氷砂糖
・ジュース
・梅干し
・チーズ
・缶詰
[水やお湯で簡単に調理できるもの]
・米(缶詰やレトルトのご飯、アルファ米=お湯だけで温かいご飯ができて便利)
・インスタントラーメン
・切り餅
・インスタント味噌汁
・レトルトのおかず
これまで、非常食と言えば「乾パン」とされてきたが、口の中がパサパサして意外と飲み込みづらい。最近は缶切り付きのしっとりしたパンの缶詰なども市販されている。餅やインスタントラーメンは、喉ごしもよくお腹にもたまる。さらに、チョコレートや氷砂糖は血糖値があがるので満腹感がすぐに味わえる、と内科医がいっていた。
【写真右】文化祭の発表コーナーで、いろいろな人に乾パンを食べてもらった。「水と一緒でないとたべられなーい」という声が多かった。(2000年9月 県立西湘高校で)
♪プラスα情報♪
よーく調べたら、自治体の非常食の備蓄量は、2日目の途中で絶えてしまう可能性があり、それぞれの市町村では備蓄量は異なり、バラツキが激しい。
小田原市(小田原市役所)
・被害者予測数 22800人
・目 標 数 22800人×3食3日分=202500食
・現 在 120000食
南足柄市(南足柄市役所)
・被害者予測数 25000人
・目 標 数 25000人×3食3日分=225000食
・現 在 19500食(2000年4月1日現在)
※各避難所(11か所)全部合わせての数。(南足柄市役所防災課の渡辺さん談)
・警察、ボランティア、消防隊など、500人分ずつ
・隣の市などの人の分 500人分
・緊急時用にフジフイルムの生協、ユニーと協定を結んでいる。
南足柄市の非常食は、すべて宇宙食。一方、小田原市の非常食の内容は、アルファ米、缶パン、赤飯などだが、これらは5年しかもたない。そのため、20年間もつ宇宙食に順次入れ替えつつある。
鍋や炊飯器がない!代用のものがあるってホント?
・もし鍋が使えなくなったら作ればいいんです!アルミホイルに缶さえあれば、鍋は作れます。ほかにも作り方はいろいろあります。身の周りにも、使える物はたくさんあるのです。
【写真上】文化祭の発表コーナーでは、非常食を展示。(2000年9月 県立西湘高校で)
【写真下】なかでも、「餅」は水でふやかすだけで食べられる便利もの。湿っているのでノドの通りもまずまず。なにより、火をつかわなくてすむのがたすかる。しょうゆのパウダーもなかなかデリシャス。(2000年9月 県立西湘高校で)
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《住…アイデア次第で快適に住む!》
水はどれぐらい必要?
飲料水は大人一人当たり一日3リットルが目安。家族全員の分をポリタンクなどにストックしておき飲料水として使う場合は煮沸して使用する。子供やお年寄りはできるだけミネラルウォーターを。ミネラルウォーターの保存期間は、ペットボトルで二年、缶で3〜5年程度(冷暗所に置いた場合)随時、保存期間を確認し期限がすぎたものは取り替えておく。さらに、炊事、洗濯、トイレなどに使う生活用水の確保も忘れずに。目安は一人一日7リットル程度。風呂や洗濯機の水は抜かず、寝る前はいつもポットややかんに水を入れておく。
▽停電になったら灯りの確保
懐中電灯は必需品なのはいうまでもない。一人一つは持っていた方が良い。懐中電灯を使用するのは大抵夜なので電池は最低でも一回かえる分は用意した方がよい。
ロウソクの灯は漏れたガスに引火しない?
ロウソクは、引火・爆発の危険性がある。でも、ガスもれなどの危険性のない場合ならば、怖がることはない。(神奈川県総合防災センターの杉山考・企画運営課副主幹談)
天ぷら油などを利用したランプなどは、とても明るくて良い。油を使用しているため危険とも思われるが、ランプは発火点が高いので、火花が飛んでもそんなに危険性はない。(神奈川県総合防災センターの杉山考・企画運営課副主幹談)
【写真右】ペットボトルでつくったランプシェード。風で火が消えることもないし、倒れて火事になる危険性も少ない(神奈川県総合防災センターの杉山さん作成)
自動車のライトは役に立つ?
車のライトは非常に明るいため、バッテリーがあがらないようにエンジンをかけて使用する場合もある。火災が起きた時は危険性もあるがほとんど危険はないとされている。しかし万が一を考えて、バッテリーに接続して使える照明器具(350V)などが防災用品売場などに売られているので、使用したりすると良いかもしれない。また、目覚まし時計の文字盤蛍光ライトや蛍光シールなども夜などに役に立つ。
▽電気について
<復旧>
電気・水道・ガスは国と県が提供(=災害協定)し、ライフラインが直る3日間で復旧する。ただし、大きな地震では地区によっては遅くなる所も発生する。
電気は発電機など代わりになる物が多い。またどちらかというと昼よりも夜の方が使用時間が長く、夜は寝る時間も含まれているので、少し遅くなっても対策はある。
<冷蔵庫>
開け閉めの回数が多いほどもちろん保冷機能は弱まり、すぐ保冷機能は失う。だから備蓄庫として使用する方が良い。
♪プラスα情報♪
家などから避難する時は、火災を防ぐために必ずブレーカーを落とそう
♪プラスα情報♪
電柱が倒れていたら、すぐに業者の人たちが災害点検を実施してくれます。また全て集中管理をしているのでどこでどうなっているのかという状態がわかります。
一番注意しなければいけないのは電線。一番上は6000ボルトもあるので、とにかく近寄らない。そして、電力会社に連絡すること。
▽プロパンガスについて
マイコンが内蔵されているメーターなので震度5以上で,たとえ使っていても自動的に止まるようになっている。
現在は漏れることはほとんどありえない。
倒れないための第1次手段としてボンベチェーン(鎖)がついていて、本体を留めている。それが古くなったりして利かない時は第2次手段として、ホースが取り付けてあって、それが引っぱられてボンベを遮断するようになっている。
♪プラスα情報♪
都市ガスは震度5以上で自動制御される。(神奈川県総合防災センターの杉山考・企画運営課副主幹談)
▽あると便利なこんなもの
・燃料は短時間なら卓上コンロや固形燃料で十分。卓上コンロのガスボンベは多めに用意を。アウトドア用の携帯コンロも便利。
・洗面具(歯磨き粉、歯ブラシ、せっけんなど。水のいらないシャンプーなども市販されている)
・生理用品(洗濯できない場合は下着を取り替える代わりにもなる)
・ビニール袋、キッチン用ラップ(用途が広い。食器にかぶせて食べたあと捨てれば洗わずにすむ)
・新聞紙(燃料になるほか、防寒用にもなる)
・ビニールシート(敷物として使うほか、屋根や窓などの雨よけにも使える)など。
▽住宅の確保について
災害で家が崩れてしまったら……。全壊,全流出の2から3割の仮設住宅がつくられます。被害状況により規模は変わりますが、東京など首都よりの地域被害の方が大きければ、そっちにまわされてしまう可能性もある。仮設住宅の立ち退きの期間は,基本的に2年とされている。被害の大きい5つの地震についての被害状況を予測したデータも出ていて、とりあえずの予防はされている。しんぱいなら、すぐにでも耐震チェックをしてみたほうがいいだろう。
▽仮設トイレについて
小田原市には、現在90基の仮設トイレが32ヵ所にしまってある。広域避難所にも備えてある。1ヶ所につき3個平均。下水道が使えない時、くみ取り式のトイレを使用。160台の車両が収集にあたることになる。これからマンホールに足場を渡して、排泄するようになるかもしれない。(マンホールをまたいで用をたす!!)
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《医…できる処置は自分達で!》
いくら119番をコールしても、受話器からは「ツー、ツー」という無情な音……。広域で被害がおきる地震などでは、混乱の中にまきこまれ救急車はやってこない。とにかく、自分達の手で心肺蘇生蘇生法などをし、自分たちの自動車で病院に搬送するしかない。
しかし、阪神大震災のときには、病院自体が倒壊したり、断水したりした。ある程度の規模の病院なら、自家発電装置を備えているが、長時間の停電で燃料が枯渇したり、燃料があっても冷却用(水冷式の場合)の水が断たれてしまい、停電のピンチにたたされた病院が少なくなかった。
また、押し寄せる負傷者で、病院は野戦病院のようになり、麻痺状態に陥るところが続出することが予想される。
神奈川県では震災に限らず、災害が起きた場合、山梨・静岡の病院が援助してくれることになっている。これは山静神(さんせいしん)広域エリアの協力体勢と呼ばれている。逆に山梨・静岡で災害が起きた時は、神奈川の病院が援助することになっている。
みなさんの住んでいる地域の広域援助協定はどうなっているか調べてみて下さい。
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▽恐ろしいクラッシュ・シンドローム(挫滅症候群)
阪神大震災では、倒壊した家屋からせっかく救出された人たちが、搬送された病院のベッドで急死するという例があいつぎました。「クラッシュ・シンドローム(挫滅症候群)」です。長時間、柱などにはさまれていた人は、(その部位の)筋肉の組織が壊れてしまい、筋肉中のミオグロビンという物質が出て腎臓に障害がでる状態になります。尿が出ない、などの症状を見落とし放置すると死亡します。一刻を争って、人工透析などの措置が必要です。そこで、断水、停電などにみまわれている被災地の病院から、高度な治療の可能な周辺エリアの病院にヘリなどで搬送することが求められます。広域エリアの連係が大切なわけです。
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《暮…通学、通勤、買い物を便利に!》
▽自動車について
車が無事である場合、車はシェルターや動けないけが人を病院まで運ぶことができる。
▽自転車・バイクについて
地震発生後に自動車のよって渋滞が起こり、その時自転車やバイクが役に立つ。しかし、結局走れる所は限られてしまう。
便利なのが『ノーパンク自転車』といって、パンクをしない自転車がある。たとえばミヤタ社製なら、自転車店で20インチ(50.8センチメートル)のものが6万1800円程度である。
▽貴重品について
貴重品として、よく現金や身分証明書、通帳類などがあげられている。災害時、全てを持っていけない場合、これらの中で優先して持っていった方がいいものは、身分証明書である。銀行からお金を引き出す時など、もし通帳がなくても、引き出すことが出来る場合もあるのである。災害時、身元の確認などをする時にも、自分の身元を証明するために、身分証明書は最も大切である。その他、通帳番号と自分の名前のコピーや、健康保険証のコピー、また持ち出せるなら免許証などを、非常持ち出し袋に入れて持ち出すとよい。
車を放棄して避難する場合、車検証を持って逃げる。車検証があれば、万一車を盗まれても、証明できるのである。コピーなどは、わかる所に入れておこう。
▽安否確認での注意点について
——会社や学校といった大きな単位での場合——
窓口を1つに決めてそこに連絡してもらうようにする。なぜなら、個人個人で連絡をとる(電話)と、混線し、パニック状態になってしまうからである。
それでも家族などに連絡が取れない場合もあるので、前もって集まる場所を決めておかなければいけない。
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▽橋が落ちたら、どうする!?
小田原市の場合、小田原大橋、足柄大橋は(近年完成し、工法も新しいので)落ちないとされている。でも、たとえ酒匂川に架かる主要道路の橋が落ちたら、神奈川県知事からの要請があった時点で自衛隊が出動する。自衛隊が仮設の橋(幅:場合の応じて。長さ:10m)を持って来る。しかし全部の橋が落ちるわけではないから必要がなければ架けない場合もある。また、残った橋は緊急輸送通路となり、一般車はおそらく通行できない。(小田原市防災部 談)
また、道路,路線など交通手段が断たれた場合、私達生徒が学校に居たら、生徒は全員学校滞在となる。(神奈川県立西湘高校・山田進校長 談) 落ちないことを祈ろう!!
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自分の居場所を知らせるために
・自分が避難しなければならない時、家族に自分の行き先や居場所を知らせる為、メモとペンさえあれば、書き残すことができるのである。紙がなくてもペンがあれば、どこにでも書くことができるのだ。だから、この二つは、必ず非常持ちだし袋に入れておこう。
取材協力=神奈川県総合防災センター
神奈川県厚木市下津古久280
046-227-0001
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3)まとめ 生き残るための条件--それはあなたの正しい知識
【付録】神奈川県地震被害想定調査報告書へ
総合学習『もいちどチェックだ! 防災マニュアル』
0)マニュアルの常識を再点検しよう!!
1)地震への心構え もいちどチェック
2)地震直後の行動 もいちどチェック
3)避難生活サバイバル もいちどチェック
4)神奈川県地震被害想定調査報告書 概要版
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・総合学習『命の大切さ、考えよう』のとりくみ へ
・『語り継ぎたい。命の尊さ〜阪神大震災ノート』のホームページへ
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※あくまで県立西湘高校の生徒たちの調査によるもので、これが防災のすべてではありません。。
●制作 2001年1月17日
神奈川県立西湘高等学校 防災取材班
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sinsai@kobe-u.com(HP管理者=神戸大学ニュースネット委員会)までメールでおよせください。担当者に転送します。
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