校舎を疾走するウリ坊 危険な親イノシシはどこに?

 1匹のウリ坊が、校舎の廊下を疾走している16秒の映像。7月16日に法学部教授がツイッターにアップしたそんな動画が13万回も再生されて話題になっている。うっかりウリ坊に近づくと母イノシシが襲ってくることがあるから危険だと言われているが、取材を進めると、この春生まれたウリ坊たちが、親からはぐれて神戸大キャンパス内の某所に身を寄せているという。神戸大学のキャラクターにもなっているイノシシの子ども=ウリ坊たちは、これからどう生きていけばよいのか?<佐藤ちひろ、脇田結衣、塚本光、昌子奈未、島袋舜也>

(動画:ツイッターにアップされた、神戸大の校舎の廊下を疾走ウリ坊の動画。7月16日午前10時ごろ、藤澤貴和子さん撮影)

▼16秒の映像、再生13万回 廊下を駆け抜けるウリ坊

 7月16日19時37分に「これぞ神戸大学のウリ」というコメント付きで、ツイッター(SHIMANAMI Ryo @shimanamiryo )に動画がアップロードされた。
  このツイッター投稿動画は、7月21日22時30分現在、3760件のいいね、983件のリツイート、116件の引用リツイートがあり、動画の再生数は13万1000件を超えている。いわゆるバズっている状況だ。


(画像上左:廊下の向こうから走ってくるウリ坊。 画像上右:ドアから校舎外に飛び出す。鼻が突き出て瓜型の体形。いずれも動画から)


(画像上左:背中に白い筋状の模様が見える。 画像上右:ウリ坊は校舎の外の駐車場に姿を消した。青い車の右下に姿が見える。)

 投稿された動画は約16秒。場所は、学内のどこかの校舎と思われる廊下。
 体長40センチ前後。猫ほどの大きさの薄茶色の動物が、廊下の向こうから猛スピードで駆けてくる。
 不安そうに見守る人の脇を走り抜け、出入り口で構えていた撮影者の横をまっすぐ通りすぎる。その瞬間、背中には白い斑点か筋が見える。突き出た鼻が細く、まさに瓜のような体形だ。
 そのまま建物からピロティーに飛び出して、左にカーブし、駐車場の自動車の陰の生け垣に突っ込んで消えていく。
 イノシシの子であるウリ坊が猪突猛進する様子が、見事にスマホカメラに収められている。

▼この映像はどこで撮影されたのか

 神戸大の六甲台地区のキャンパスでは、植え込みの土を掘り返したり、フェンスに大きい穴を開けたりと、イノシシたちは堂々と日常生活を送っている。
 ウリ坊を引き連れたイノシシが出没するのもよくあることだが、ウリ坊が単独で、しかも廊下を疾走するシーンは珍しい。
 コメントや引用リツイートにも、「かわいい」、「ウリダーッシュ!」、「猪突猛進」など、ウリ坊の愛らしさについて触れたもののほかに、「屋内にまで入ってくるのはびっくり!」、「さすがに屋内で見た覚えはない」という、驚きの声もあがっている。

 動画をツイートしたのは、神戸大大学院法学研究科の島並良教授。大学院科学技術イノベーション研究科教授も兼務している。科学技術イノベーション研究科教授も兼務している。
 島並教授にDMで尋ねると、撮影したのは自身ではないとの返事。「工学部の職員さんが撮影した」、「直接の知人ではないので」という答えだった。
 この映像はどこで撮られたのか。この単独行動のウリ坊はその後どうしているのだろうか。

▼現場は工学部セブンイレブンからわずか50mの校舎だった


(写真:神戸大工学部キャンパス。この場所から50mほど右側奥が現場だ。2018年撮影)

 場所はすぐに特定できた。
 「工学部職員が撮影」という証言を手掛かりに、授業の帰り道に六甲台第2キャンパス工学部棟を歩いていると、動画とそっくりの茶色の校舎が見えてきた。工学部1E・1W棟だ。駐車場には、動画と同じ色の自動車が停まっている。
 ガラス扉からはC1棟とC2棟をつなぐ南北の廊下が見える。ウリ坊が駆けていた廊下のように見える。右手には、消毒液のスタンドもある。間違いなく、動画が撮影された現場だ。
 ウリ坊は、1階の「創造工学スタジオ1 C2-101」の前を通って、C1棟に面する扉から飛び出し、左の駐車場方向に逃げていったことがわかる。
 この扉を右に行くと、わずか50メートルでセブンイレブンや工学部食堂のある、工学部でいちばん人通りの多い十字路だ。

(写真下左:ウリ坊の走っていた廊下。写真下右:ウリ坊はここを飛び出し左にカーブした。提供写真)

(写真下:ウリ坊が飛び出したC2棟の玄関からパノラマ撮影すると、左に逃げ込んだ駐車場の植え込みが、右奥にはセブンイレブンのある2階建ての工学会館が見える。提供写真)

▼「アライグマやイタチが入ってきたことはあったが、ウリ坊は初めて」

 一方、撮影者を探して、別の取材班は工学部の事務室に電話で取材。
 やりとりを重ねるうち、撮影者につながった。工学研究科学務課教務学生係の藤澤貴和子さんだ。

 藤澤さんによると、この動画を撮影したのは7月16日(金)の午前10時ごろだという。
 ウリ坊が校舎に入り込んだことを他の職員から聞いて知り、廊下に出た。
 中庭のドアが開いているのを見て、ここから侵入したのではないかと思った。
 これまでアライグマやイタチが校舎に入ってきたことはあったが、ウリ坊は初めてだったという。
 藤澤さんは、記録のためにスマホの動画撮影機能を起動して構えた。

▼廊下で滑ったり、壁にぶつかったり ウリ坊はパニックになっていた

 「早く建物から出してあげたいという気持ちでした」という藤澤さん。ウリ坊は真っ直ぐにしか進むことができず、ガラスを認識できなかったのか、廊下の奥や手前のガラス扉にぶつかることを繰り返していたそうだ。
 蹄をチャカチャカ鳴らしながら廊下で滑ったり、壁にも何度もぶつかったりとパニックになっている様子だった。
 かわいそうに思った藤澤さんは、ウリ坊が外に出られるように、人が少ないほうのドアを開けて、「おいで~」といったところ、一度反対方向に行ったウリ坊がくるりとUターン。そのあと藤澤さんの方へまっすぐ走ってきて無事ドアから脱出できたというのが、ことのてん末だ。
 こうした事情を聞くと、撮影された動画の音声や、ウリ坊の慌てようと、ぴったりシンクロする。
 学生たちは教室のドアからその様子を見ていたという。

▼疾走ウリ坊はどこへ失踪? 近くの調節池では5匹の集団発見

 藤澤さんら、工学部関係者によると、ウリ坊は6月下旬から六甲台第2キャンパスの馬場周辺で度々目撃されていたという。
 校舎内に侵入したウリ坊は1匹だけだったが、馬場で目撃されていたのは5匹のウリ坊集団。
 側溝の中を仲良く歩く様子が、学生や職員の動画に収められている。

(動画下:貯水池の中にいる3匹のウリ坊<音声なし> 2021年7月19日午後撮影。藤澤貴和子さん提供)

 廊下疾走のウリ坊の行方が案じられていたが、藤澤さんの動画撮影日から数日後、工学部食堂から百年記念館に向かう道沿いの、コンクリート製の約5メートル四方の小さな調節池で5匹のウリ坊が職員らによって発見された。
 記者が7月20日の帰路に通りかかった際は、2匹はコンクリート堤の上で寝ころび、残り3匹は調節池の内側で、ブヒブヒいいながら水をパシャパシャはねていた。水深は深くないようだ。
 コンクリート壁は2メートルほどで、まだ小さいウリ坊たちは登れない高さ。3匹はどのようにして調節池に入りこんだのか。

 藤澤さんによると、見つけてから数日間ずっとこの状態だということで、3匹は調節池の内側に落ちてしまったのか、または水路内への抜け道があってそこから水路に入ったのではないかと推測している。
 一方、この道沿いで勤務する警備員は、ウリ坊は雨で水かさが増したときに水路に入り、そのあと出られなくなってしまったのではないかと見ている。

▼いまは生後3ヶ月前後の赤ちゃん 秋口には20キロ超に

 一見、かわいいウリ坊だが、大きな危険が潜んでいると専門家は指摘する。
 イノシシの生態に詳しい兵庫県森林動物研究センターの石川修司専門員によると、廊下疾走のウリ坊は、生まれて3ヶ月前後の赤ちゃんだという。
 イノシシの子どものウリ坊は、基本的に4月から5月に生まれる。茶色い背中に白い縞模様の浮き出た、いわゆる「ウリ坊」の状態でいるのは秋口までで、秋以降はこの模様が消え、親と同じような見た目になる。12月ごろには、体重が20キロほどになるという。
 基本的には、ウリ坊の近くには必ず母親がいるという。

▼親イノシシが襲ってくることも ウリ坊には近づかないのが鉄則というが…

 注意すべきは、親イノシシだ。石川さんは、「子どものウリ坊に手を出すと親が怒って向かってくる。神戸大周辺のイノシシは人慣れしてるし、人をこわらずに接近してくることがある。そこで、かわいいと思って近づくと親の逆襲を受ける事になるので、(近づくことは)危ない行為。とにかく近づかない方がいいと思う」という。

 神戸では、度々、人間がイノシシに襲われる “事件”が起きている。
 なかでも有名なのが、2014年6月下旬の「テレビカメラマン襲撃事件」。
 神戸市中央区で女子中学生がイノシシに襲われ、その現場を取材していたテレビや新聞のカメラマンらに、大きなイノシシが突進。朝日放送のカメラマンに執ように襲いかかり、カメラマンは両足を噛まれて大けがをした。
 この様子は、他局のテレビカメラに収められ、その生々しい状況はYouTubeに投稿されている。

▼ウリ坊集団は親からはぐれたのか?

 気になるのは、母イノシシの存在だ。
 同じく兵庫県森林動物研究センターの野口和人専門員は、「基本的に、この時期にウリ坊が親が離れることはないと思う」という。
 基本的にイノシシは母系集団で行動するのが基本で、母イノシシが数匹のウリ坊を連れて行動する様子は、神戸大キャンパスでよく見かける光景だ。
 ウリ坊は、親と一緒に生活する中で捕食を学習するというのが通常の生態で、「親が周りに見られないということになると、はぐれていることもありうる」と野口専門員は指摘する。


(写真左:貯水池の水の中で身を寄せ合う3匹のウリ坊。写真右:貯水池のコンクリート製の堤の上で寝転ぶ2匹。周辺に母イノシシの姿は見られないというが、要注意だ。 2021年7月20日午後撮影 提供写真)

▼5匹はこれからの猛暑や台風のシーズンを生きていけるのか

 この5匹のウリ坊集団の周辺では、いまのところ親イノシシは目撃されていない。
「捕食行動がうまく取れない状況だと、栄養不足になってしまうことがあるかもしれない」と野口専門員。

 今は「かわいらしい」と思われているウリ坊だが、順調に育てば、後期が始まる頃には、体が大きくなっている。
 近くに親がいた場合は親から攻撃される場合もあるので、かわいいと思ってうかつに近づかないほいがいいというが、5匹をそのまま見過ごして良いのか、悩ましいところだ。
 7月19日には役所関係の人が来て、ウリ坊を調節池の中から脱出させる方法があるのか検討していたのを目撃した大学関係者がいる。

 動画に写っていた廊下疾走のウリ坊は、この5匹の集団の1匹なのか?
 そして、ウリ坊集団の親はどこにいったのか?
 この調節池周辺では、かつて大雨の際に死んだウリ坊がいたというから、心配だ。
 猛暑や台風のシーズンを前に、動画を撮影した工学部職員らはウリ坊たちの行く末に気を揉んでいる。

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