神戸大都市安全研究センターが主催するシンポジウムが11月19日、神戸市産業振興センターで行われた。「災害文化と災害教育」をテーマに開かれたシンポジウムは午前と午後の部の二部構成。8人の講演者がそれぞれの視点から見解を述べ、討論が行われた。【11月19日 神戸大NEWS NET=UNN】
シンポジウム「災害文化と災害教育」は、文科省が採択する平成17年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」の一環として行われた。阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、防災・減災への構えをどのように暮らしの中に生かしてゆくのか、震災経験をどのように地域に根付かせ、後世へと伝えるべきかを討論することが趣旨。
午前の部 学校における災害教育
プログラム午前の部は、神戸大文化学研究科の岩崎信彦教授の「災害文化と災害教育をどう考えるか」という問題提起で始まり、「学校における災害教育」をテーマに小中学校、高等学校、大学における災害教育がそれぞれ報告された。
神戸市教育委員会事務局指導部指導課主事の中溝茂雄さんは、震災教育教材「幸せ 運ぼう」を紹介し、震災体験を生かす教育の中で、思いの共有化が大切であると強調した。
続いて、全国で初めて設立された兵庫県立舞子高校環境防災科の活動が報告された。環境防災科長の諏訪清二さんにより、設置にいたる研究・準備の経緯や環境防災科の特徴的な教育活動などが説明された。会場には舞子高校環境防災科の生徒の姿も見られ、その積極性に諏訪氏も驚いていた。
大学における震災教育については、都市安全研究センターの有木康雄教授と田中泰雄教授により紹介された。有木教授は新たな災害文化の形成、減災社会の構築に貢献することを中心に話し、田中教授は総合的・多面的取り組みの重要性の認識を説いた。
午前の部最後の討論会では、有木教授が大学での震災教育において「学生が共鳴することが必要だ」と話した。
午後の部 地域社会と災害教育
プログラム午後の部は「地域社会と災害教育」という問題提起のもと行われた。被災体験を受け継ぐにはどのような取り組みが重要かを、具体的な事例をもとに各発表者が紹介した。
被災地NGO協働センターの吉椿雅道さんは、天災や災害に襲われた全国の被災地を訪ねる。「たとえば雪国に住む高齢者は、都会にいる私たちの予想に反して『(豪雪は)毎年のことだよ』と落ち着いている。それは生活の中に知恵が生きているから。過去の経験が実生活に結びついた例」と説明。「(経験の伝承には)語り部と、語り部を支える地域が必要」と強調した。
神戸市消防局予防部の西村康男さんは、学年ごとに取り組む学校の防災教育について「年代別に知識を積みあげることは大切。しかし大きな災害は年代を問わず同時に襲ってくることも事実。世代の枠を超えた取り組みが必要だ」と提言。小中学生などが広く参加できる「防災ジュニアキャンプ」の活動を紹介した。
阪神高齢者・障害者支援ネットワークの黒田裕子理事長は、時間軸の設定が大切だと説明した。「災害支援にせよ被災現場の検証にせよ、ポイントは初動の動き。被災直後の動きが、その後の中長期的な影響を変える」とした。
神戸大留学生センターの瀬口郁子教授、震災を読みつなぐ会の下村美幸代表はそれぞれ阪神・淡路大震災での留学生の声を紹介。「彼らは当時、留学先の神戸で突然の大地震に見舞われた。『先生、今すぐ国に帰りたい』と泣く学生の声に、心のケアの必要性を強く感じた」と瀬口教授。このできごとが、留学生の心のケア・犠牲者の追悼・記録の保存を目的とした冊子「忘れられない…あの日-神戸からの声-」発刊のきっかけとなった。冊子におさめられた留学生の手記は、下村さんの朗読によって今の学生にも届けられる。「震災については『こういうことをしているグループがあるんだ』と他地域に伝承させることが大切」(下村さん)という。
午後の部の終了後に行われた総合討論では「専門家を育てるだけではなく、それぞれの立場で災害をどのように捉えるのかが大切」「災害の語り部という人を地域の宝と出来ておらず、(災害体験が)伝わっていない。災害経験を後世に伝えるという意味で地域を作り直すことが大切」など、各発表者から総合的な考えが届いた。シンポジウムに参加した学生からは「神戸大以外の学生にも、災害教育や研究をする場を広げてほしい」といった要望や「(私たちが)福祉と災害を研究する上で、とても良いシンポジウムだった」という感想・発言も寄せられ、内容の濃いものとなった。
【写真中】午後の部に行われた討論。
【写真下】各発表者を紹介する岩崎信彦教授。(いずれも11月19日・神戸市産業振興センターで 撮影=森田篤)
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。