神戸大海事科学部の井上欣三教授を代表とした海事科学部の研究者グループ「海上支援ネットワーク」が提案する、災害時に慢性腎不全患者を船舶によって搬送する構想は国内だけでなく、台湾など国外にも影響を与えている。【7月5日 神戸大NEWS NET=UNN】
平成7年に起きた阪神・淡路大震災では、地震が発生してからの3日間、利用できる船舶があったにも関わらず、船舶による物資、人員輸送はほとんど行われていなかった。同ネット代表の井上欣三教授(いのうえ・きんぞう)はがれきの山と化した神戸の街で苦しむ被災者の姿を見て「人の命を救いたい」と感じたという。井上教授は海事の立場から被災者搬送の問題の解決策を検討、神戸大大学院海事科学研究科所属の練習船「深江丸」などの船舶による被災者搬送を構想し、平成12年に同ネットを設立した。当初はすべての被災者を対象とした、被災地外の病院への搬送を予定していたが、法律がそれを阻んだ。船上での治療行為は禁止されているのだ。そこで同ネットは、日本透析医会などと提携し、慢性腎不全患者を対象とした搬送を行うことにした。慢性腎不全患者は週に2、3回人工透析を受ければ平常者と変わらないため、法律に触れることなく搬送ができるからだ。同ネットは神戸市、大阪市など大阪湾を囲う地域の自治体などと協定を結び搬送ルートを確保。「関西圏プロジェクト」として、災害時の船舶による医療支援の有効性を調べ、実用化に向け動いている。
現在行われている事業は「関西圏プロジェクト」だけではない。同ネットが東京海洋大に今まで培ってきたノウハウを提供し、井上教授を顧問とした「関東圏プロジェクト」が昨年からスタートした。中京圏や瀬戸内圏などでもプロジェクトが計画されている。また、台湾など地震が多く起きる国々から同ネットに「(同ネットの活動内容を)教えてほしい」といった声があがっているという。
同ネットに関して井上教授は「災害に遭っても海がある。『海にも道がある』ということを政府、国民に知ってほしい」と話し、「プロジェクトの国際的規模での拡大と法律をクリアすることを柱にして(活動を)進めていく」と活動の拡充を進めている。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。