消させぬ記憶、思い 大日岳事故から8年

当時神戸大2年の溝上国秀さんら大学生2人の命を奪った大日岳遭難事故から、3月5日で8年が経過しました。【3月5日 神戸大NEWS NET=UNN】

 事故の発生した2000年3月5日から、神戸大学ニュースネット委員会ではこの事故を取り上げ、取材を行ってきました。
 8年にわたる取材活動で私たちはこの事故、裁判における情報に加え、取材を通して感じたメッセージを発信してきました。
 連載を行ってきた「特集・伝える命の大切さ」では、亡くなった溝上国秀さんのご家族をはじめ周りの人々が事故後、一つの「命」、決して失われることのない記憶についてどのように感じ、またどのように向き合っておられるのかを取り上げ、「命の尊さ」をテーマに記事を制作してきました。
 それでもニュースネットは幅広い年齢層の方々にご愛読していただいております。読者の方々より決して人生経験の多くない一学生という立場で「命」について語る資格があるのか、という自問自答を私たちは繰り返してきました。ニュースネット内でも幾度と無く議論の対象となってきたところです。
 しかしこの事故、そして裁判を「伝えたい」、「知っていただきたい」という思いも常に私たちは持っていました。これは使命感や義務感と異なるものです。大日岳事故特設ページの設置もこれからニュースネットを知ることになる新しい記者、そして読者の方々に知っていただくきっかけになれば、という思いからの活動でした。
 実際に裁判で戦っておられるご家族を取材させていただくことで、私たちは言葉に表せない「命」の重さを感じました。記事の中で伝えきれなかった思いはまだまだあります。私たちが最も「伝えた」かったことは、「命」についてどう考えるべきかをもう一度自分の中で問い直そう、ということでした。
 時間は記憶を消す力を持っています。しかしそんな時間も人の「死」に勝つことはできません。どんなに薄くなろうとも、「命」を奪う「死」の記憶は完全には消えません。記憶は心に残り続け、時に「生」を人に感じさせ、時に「死」を人に感じさせます。
 だからこそ「命」は失っても、失わせてもならない尊いものであるのです。私たちには「命」のあり方をもう一度考え直す機会が必要です。読者の方々が記事を通して「命」について考える機会をもっていただけるのであれば、それがどのような形であっても私たちが今まで記事を書いてきた成果であると思います。
 私は今日、暦の上では国秀さんと同じ日数を生きたことになりました。しかし国秀さんは私よりずっと早く生まれ、これからも人々の心で生き続けます。私たちが尊い一つの「命」と向き合った結果が、これまでの記事となって皆さまの目に留まればと思います。


*この連載は今回で終了します。過去トピックスについては「大日岳事故特設ページ」をご覧ください。  ?

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