身近に潜む貧困と向き合う 人に学ぶ実践塾・第2弾

神戸大の学生を対象に、社会問題への参画や共同作業を行う講座「地域に根差し人に学ぶ実践塾」(主催:都市安全研究センター・学生ボランティア支援室)が8月 9日から開講されている。2つ目のテーマとなる「大阪における野宿と貧困の問題」は8月20日から4日間開催され、延べ15人の学生(他大学含む)が、大阪・釜ヶ崎を中心に夜まわり活動や住人との交流を行った。【9月4日 神戸大NEWS NET=UNN】?

Photo 労働者が集まる街、釜ヶ崎。日雇い労働など、不安定な雇用体系で生計を立てる人が多く、ケガや不況など様々な理由で働けなくなった労働者が、路上生活を余儀なくされている。そして労働者の多くは家庭を持たず、誰にも見取られぬまま路上で亡くなるケースも少なくない。?

◯夜回りで見る厳しい現実?

  20日、学生らは「木曜夜まわりの会」代表の小柳伸顕さん(昭和40年教育卒)に説明を聞いた後、4、5人のチームに分かれて夜まわりをした。同会は釜ヶ崎を拠点に、路上での生活を余儀なくされている人へ健康状態をたずね歩く夜まわり、生活相談などの活動を20年以上行っている。?

 今回は鉄道の高架下や駅構内、天王寺動物園、三角公園などを回り、路上で生活する労働者に声をかけた。生活の話や健康状態についての話が中心。相手に恐怖感を与えないため、地面にひざをつき、出来るだけ同じ目線で語りかける。午後10時半から開始。すでに就寝している人には無理に声をかけない。?

 中には、夜まわりに対して快く思わない労働者もいた。「おまえなんや。見てるだけやないか」。夜まわりの後に行われた振り返りの会で、「ショックを受けた」と言葉を漏らす学生。労働者のための活動が、すべて歓迎されているわけではないことを知った。  初めて夜まわりに参加したという佐々木敦子さん(発達・1年)は、「(路上で生活している人を見るのは)初めてではないが、やせてはる人を見てショックだった」と振り返った。?

○西成の「生活」を感じる?

 翌朝には、仕事を求める労働者が集まる「寄せ場」を訪れた。朝5時から開館する「あいりん総合センター」で労働者が仕事を得る様子などを見つめた。同センター内にある「財団法人西成労働福祉センター」のありむら潜さんは、現在の釜ヶ崎の姿を学生に説いた。不況のあおりで仕事に就けない労働者の姿。一方で、生活保護を受ける労働者も増えているという現状。学生らは説明を聞きながら、複雑な表情を浮かべていた。  午後からは西成区内のまち歩きや路上生活者に関するドキュメンタリー映画などを視聴し、釜ヶ崎の現状に対する理解を深めた。?

◯テント村見学 顔の見える交流を?

  3日目に参加した6人の学生らは午前中、釜ヶ崎近くの西成公園でテント村を見学。今回の実習受け入れの窓口となった男性の説明を聞きながら、公園内を見てまわった。西成公園には野宿者がたくさんのテントを作って生活しており、「テント村」が形成されている。最近は行政側の説得によって生活保護を受けることを決め、テント村を去る住民も増えてきたといい、公園内にはまばらになったテント群が並ぶ。?

 訪れた学生らは、実習の受け入れの窓口となった男性の説明を聞きながら、公園を見てまわった。?

 その後、学生らの質問に住人らが答える形で話し合った。初めの1時間ほどは、テーブルを挟んで座りながら行われたが、あらわれたのはある種の「違和感」(藤室さん)。学生からの質問も出にくい状態が続いた。
 だが、学生らが各自で自由に話を聞きに行けるようにすると、自然と会話が弾んでいった。1対1、または少人数で、自らの身の上話をする住人と、熱心に話を聞く学生とがうちとけあった。笑顔も多く見られるようになった。  今回の受け入れに「見せ物じゃない」と反発していた住人の女性から、帰り際に「また来てな」と言われ「とてもあったかいと感じた」という田代真也さん(発達・3年)。?

 午後からは株式会社ナイス(大阪市西成区)の非営利部門として運営されている「くらし応援室」で、室長の佐々木敏明さんによる「支援から応援に」と題した講演が行われた。阪神・淡路大震災の被災体験をきっかけに野宿者問題に関わるようになったという佐々木さんが、くらし応援室の活動履歴を紹介。最前線で活躍してきた佐々木さんの話に、学生らは熱心に聞き入った。?

 一日を終えた学生らは、宿泊所の「旅路の里」で学んだことを振り返った。「(釜ヶ崎は)世界が違う」、「テント村はあたたかかった」、「(テント村の住民は)すごく生活力がある」など様々な思いを話し合った学生ら。   1年生の頃から学生震災救援隊に所属し、野宿者問題にも関わってきた岸洋平さん(法・4年)は、テント村で仕事が体にこたえる年齢になっても、かたくなに生活保護を受けようとしない60代の男性と話し込んでいた。「(男性は)体の動く限り自分の力で生きていこう、と。必要なのは生きている実感を持たせること。安易には(生活)保護にはつなげない」と、男性との話で実感したという。?

 最終日には、大阪人権博物館「リバティ大阪」を見学。大阪城公園でパペット(指人形)制作などを行った。?

  4日間を通して、釜ヶ崎の現状を知り、路上で生活する人と交流した学生ら。学生側のリーダーをつとめた江口怜さん(発達・4年)は西成公園で生活する住人と話し、「ホームレスっていう(名前の)ひとはいない。一人ひとりと向き合ったことは大きい」と、顔と顔とを向け合った交流の大切さを感じていた。

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