新たな領域に挑戦できる人材を システム情報学・多田研究科長に聞く

 4月に14番目として新設されたシステム情報学研究科。全国初の「計算科学博士」という学位が取得できるなど、注目すべき点は多い。研究科長に就任した多田幸生教授に話を聞いた。【6月29日 神戸大NEWS NET=UNN】

 ―システム情報学研究科を簡単に紹介してください。
 工学研究科のうち、従来の情報知能学専攻と呼んでいたものが、工学研究科から独立し、3つの専攻(システム科学、情報科学、計算科学)から成るシステム情報学研究科となった。学科は情報知能工学科のまま。内容については、キーワードがシステム・情報・計算ということで情報知能時代よりはわかりやすい。計算科学では、目に見えない、実験できない、近づけない現象をコンピュータでシミュレーションをする。?

 ―ポートアイランドに設置予定の次世代スーパコンピュータ(以下スパコン)と研究科とはどのように関連していくのでしょうか。
 直接スパコンを触ることが目的ではないが、物理、生物、機械、電気とそれぞれの分野がある中で、高速な計算機を使わないとできないような研究を集約し、共通の手法を探っていく。また事業仕分けを通じて、京大や阪大など、全国にある大きくて速い計算機もそれぞれ連携して有効に利用していこうという動きが出てきている。私たちの研究科では、それぞれの分野や計算機を結びつけた考え方を持ち、新しい学問領域、あるいは研究領域に挑戦できる人材を育てていく。?

 ―次世代スパコンと従来のスパコンとの違いはなんでしょう。
 従来のものよりも計算速度が千倍ということ。ただ、マシンがどれだけ強力でも、実際に計算機を指示通り動かすことができる人間がいなければ意味がない。そういったことも計算科学の一部にはあるし、化学や生物など、それぞれの分野も細部までアドバンスした教育・研究をしなければならない。?

 ―現在、具体的に課題として上がっていることはありますか。
 大学院の定員充足率には十分満足してる。これからは情報知能工学科からの学生だけでなく、他学部から専門分野の基礎を持った学生、あるいは他大学の学生にも入っていただきたい。?

 ―インテンシブコースというものが設けられています。
 大学院は、前期課程が2年間、後期課程が3年間、が一般的だが、計算科学専攻だけに5年一貫に近いインテンシブコースを設けた。
 5年一貫以外の特徴としては、全国初の「博士(計算科学)」という学位を出すということ。早い人で4年後に出せればいいなと考えている。?

 ―プログラムという点では何が変わるのでしょうか。
 インテンシブコースに入った学生は、研究科の共通授業としての基礎の部分が少し減って、代わりに計算科学に特化した講義を受けてもらうことになる。おそらく、この新しい研究科の特にインテンシブコースは、かなりレクチャー受けることが多くなる可能性がある。いわゆる研究ではない「勉強」ということが増えるだろう。?

 ―他の大学で出していない学位を出す狙いとはどのようなものでしょうか。
 例えばこれまでは物理の中の延長上で計算科学をやっていた。だから実験であろうが、計算であろうが、物理学博士。それに対して、特に計算をやってきたということが表に出る形にしたということ。
 ただ、それがどこまで世の中に対してインパクトを与えることになるかというのはこれからの話。ここから育っていった人が、各大学、各会社でシミュレーションというものを通して、私たちの生活の寄与になってくれれば。例えば、豪雨の局地予想の範囲がスパコンを使えばぐっと狭くなる。あるいは、インフルエンザの菌とタミフルなどの薬の相互作用が計算できる。インフルエンザの変異が予想できるからどう対処したらいいかということを計算する時間が大幅に短縮できる。?

 ―この研究科が独立した社会的な意味について考えを聞かせてください。
 やはり大きい。まず、大学の予算が削られていく中で研究科を新設したということが大きなインパクト。その中で、私たちは成果を4年後、5年後に出していかないといけない。これは使命。
 また、全国の計算科学の教育を基礎からどんどん盛り上げていきましょうという意図がこの研究科にはあって、京都大学、大阪大学、奈良先端科学技術大学院大学、名古屋大学、筑波大学の協力も得ている。協定講座と言って、他大学から非常勤講師に来ていただく、あるいはこちらからも向こうの学生らに対して講義を開く。それぞれの大学で教えられる範囲は限られるから、協力して教育していこうという仕組みも作ってる。?

 ―その仕組みはまだ確立されていない状態ですか。
 今のところは他大学から非常勤に来ていただいてうちの学生が授業を受けているだけの段階。いずれは向こうの学生さんに来ていただいて神戸大の学生と一緒に授業を受ける、あるいはこちらの教授を派遣するというスタイルを考えている。とにかく一緒にやって少ない教育資源を有効活用しようということ。?

 ―企業と連携した講座もあります。
 システム科学専攻は三菱電機?先端技術総合研究所、情報科学専攻は?国際電気通信基礎技術研究所、計算科学専攻は理化学研究所と海洋研究開発機構。新しい計算科学専攻には、スパコンを持っている研究所の協力がある。それぞれから客員教授・准教授として3人づつ先生に来ていただいて講義をしていただく。修士課程の学生も現場で研究所の方と一緒にやらせてもらえることになった。?

 ―今後目指す青写真とはどのようなものでしょうか。
 一つは、各部署の細かい仕事ではなく、全体を見て仕事ができる人材を育てたい。計算科学なら、この研究科を出た人がシミュレーションなどでいかに力を発揮してくれるか。他の面でも、結局は情報というものがないと回らない世の中になってきている。それだけに、ここを出る学生に寄せられる期待は大きいだろう。
 それから、全国の計算科学やシステムの核となるために、教育であるとか、プロジェクトで講演するとかいう場面では各研究科におられる先生方にも登場していただいて、計算科学、あるいはシステムのことを盛り上げていきたいとも考えている。?

 ―将来的にはスパコンの近くで研究ができるようになりますか。
 行けたらいい。一部の研究グループは、ポートアイランドのスパコンの近くに神戸大学が設けつつある統合研究拠点というものに進出を予定している。

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