人類の放射線被ばくの歴史に関するセミナーが6日、国際文化学部E401教室で開かれた。主催した国際文化学部の塚原東吾ゼミに所属する学生を中心に、神戸大生や学内外の研究者など40人ほどが集まった。【2月9日 神戸大NEWS NET=UNN】
国際文化学部の前身、神戸大教養部で科学史を教えていた故中川保雄氏が著した「放射線被曝の歴史」が、福島第一原子力発電所の事故を受けて増補された。これを受け、現在神戸大で科学史研究をしている塚原ゼミでは本書の輪読会が重ねられ、その研究発表の場としてこのセミナーが開催された。
学生らは発表の中で、放射線被ばく線量の国際基準を決めるICRP(国際放射線防護委員会)が、原子力開発を推進した米国の主導で結成されたことに触れ、「原子力を推し進める組織が、それに伴って起こる被ばくを規制するのは矛盾している」と指摘。また、ICRPが基準線量を決める際用いてきた、「リスク・ベネフィット論」や「コスト・ベネフィット論」といった、被ばくするリスクや被ばくしたコストをお金の利益でカバーするといった考えも「被ばくした人が直接利益を受けるような仕組みになっていない」と批判した。
過去の度重なる原子力事故の後、原発反対運動が盛んになったことを受けてICRPが基準を厳しくしてきた事実から、「これからも原子力の利用に反対していけば、脱原子力への道はつながっていくだろう」としながらも、科学史の観点から問題を解決する難しさについても言及した。
またセミナーには、中川氏とともに反原発の活動をしてきた稲岡宏蔵さんと、中川氏の妻で園田学園女子大名誉教授の中川慶子さんがゲストとして呼ばれた。稲岡さんは福島第一原発の事故における人的被害や経済被害はチェルノブイリに匹敵すると述べ、「被ばくのリスクは受動喫煙など他のリスクと比べて高くない」などという政府の見解を、過小評価であり無責任だと非難。その一方で、「日本はヒロシマ、ナガサキに次いでフクシマを経験した国。この経験を受け継いで、国際連帯を進め、原発や核兵器をなくす運動を推進する使命がある」と主張した。中川さんは「自分でスープを『こぼした』のに『スープがこぼれた』と親に言っている子どものようだ」と政府の対応をたとえて風刺した。
早津和輝さん(経済・1年)は福島の現状に関する講演会でこのセミナーの話を聞き、「福島での事故について少しでも知れたら」という思いで参加を決めたという。「去年の3月からほとんど何も変わっていない福島の現状に対して、自分でも何かできたのではないかと再確認した」。ゼミ生として参加した柴田暢子さん(国文・4年)は2年生の頃から原子力と核兵器についての文献を読んでいたという。「原発を止めるために何をすればいいか、改めて考えるきっかけになり有意義だった」と話した。
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