放射能汚染の問題で揺れる食の安全について話し合う企画「たべものとこれから」が6月23日、プラネットアース(神戸市中央区)で行われた。東北地方から農家を招き、被災地の農業が直面する現実やメディアが報道しない事実を交えながら、生産者と消費者の両方の立場からシビアな議論が交わされた。【6月29日 神戸大NEWSNET=UNN】
「たべものとこれから」は神戸大学フードミーティング実行チームが主催する、放射能と食の安全に関する議論を深めるための企画。同様の議題を扱うイベントは全国でも開催されているが、「たべものとこれから」では実際に被災地で農業に携わる2人の方をゲストに迎え、今まで直接話し合うことが不可能だった生産者と消費者を引き合わせた。
生産者として招かれたのは、福島県で完全無農薬のコメ農家を営む吉田広明さんと、被災地域で農業の震災復興支援プロジェクトを運営する田澤文行さんの2人。前半では吉田さんと田澤さんによって、震災から1年以上経過した現在でも復興はおろか復旧すら進んでいない被災地と、東北の農業の現状が話された。被害を受けた人々に手を差し伸べるべき政府や東京電力が、農家に対し何の補償もしてくれないこと、マスコミが報道しないだけで将来を悲観し自殺する農家が少なからず存在することなど、当事者から直接聞くしか知りえなかった現実が語られた。また、国の決めたものより厳しい基準で毎日検査していることや、その基準をクリアし出荷したものは全て安全であるということにも言及し、被災地の農業再興のために手を尽くす農家の努力も紹介した。
後半では会場を2つのグループに分け、ゲストと近い距離で話し合いが進められた。ここでは前半に発言することの出来なかった参加者も積極的に意見を出し、活発な議論が進められた。政府、マスコミ、科学への不信に由来する、東北の野菜を食べることへの不安感や、農家の安全に対する取り組みをある程度理解しながらも、被災地の野菜を買うことを躊躇してしまうことなど、科学の専門家ではない一般の消費者としての正直な意見が目立った。生産者と消費者としての意見が飛び交った議論は深まり、客観的な数値で安全性を強調する生産者と、その根拠を理解するのが難しい、理解してもやはり不安に思う消費者との譲れない議論となった。白熱した議論は結論の見えないまま時間切れとなり、両者の立場から話し合うことだけでは解決しない問題の難しさが浮き彫りとなった。
参加した国際文化学部の学生は「答えの出ない議論で難しかった。この問題は誰のせいにもできないので、『東北のために買う』というのはおかしいが、自分なりの基準をもって東北の野菜が買えたらいいと思う。今日が食の安全に関心をもっと持つきっかけになれば」と、未来を担う若者として前向きな意思を持って話していた。
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