神戸大の六甲台・鶴甲キャンパス周辺には、飲食店や小売店がほとんど見当たらない。付近7地区の人口は下宿生を含めて1万人を超えるが、大学内の店舗を除けばスーパーが1軒だけ。商業地域の六甲道までは徒歩で30分以上かかる。
「住みにくいことこの上ない」。発達科学部キャンパス付近に下宿する学生はそう話す。付近唯一のスーパー「コープこうべ」は小規模で閉店時間も早い。買い物は六甲道地区まで往復1時間。深夜にお腹が空けば、キャンパス内のカップ麺自販機まで走る。深夜まで研究室に残る工学部の大学院生は、カップ麺の買い置きで対応する。大学生協の食堂が閉店するのは午後7時半。工学部の「セブンイレブン」も24時間営業ではない。「原付があるから大丈夫」と話す篠原台に住む学生は、駐輪場代に毎月数千円を払っている。「住宅街にせめてコンビニが1軒あれば」とぼやく。
六甲で生まれ育った発達科学部の澤宗則教授(人文地理学)は「大学付近に店が無いのは昔から」と話す。住民は車やバスで買い物に出るほか、スーパーの宅配サービスも高齢者を中心に利用されているという。
六甲台・鶴甲とその付近の地区は神戸市の区画整理で「住居専用地域」に指定され、特に一戸建てが多い「第2種低層住居専用地域」では飲食・小売店を単体で設置できない。神戸市の担当者は「区画制限もあるが、駅や幹線道路から離れ立地が悪いのが要因では」と話す。実際に「大学付近は地価が高く、住宅街の主婦層は深夜利用が無いため出店のメリットが無い」(セブンイレブン担当者)という声も。割を食うのは下宿生だが、今のところ「陸の孤島」で快適に暮らすには原付を持つしかないようだ。
・時代の流れ? 学生阪六素通り
一方、大学への登り口となる阪急六甲駅(阪六)周辺はかつて学生向けの飲食店が軒を連ねていた。しかし近年は数を減らし、学習塾やコンビニが目立つ。営業を続ける店主たちは、学生の消費意識の変化を口にする。
「学生が来なくなった」と話す、阪六付近で30年間とんかつ屋を続ける男性。店をにぎわせた学生グループが、今は素通りしていく。44年間ピザハウスを営む女性も「学生がお金を外食より自分の趣味や勉強につぎ込むようになったのでは」と話す。もともと阪六周辺は閑静な住宅街で、学生相手以外での飲食店商売は厳しい。付近や大学内にコンビニなどが進出して、学生の足はさらに遠のいた。「新しい店が入っても2年と続かない。店主の高齢化も進んでいて店の数は増えない」。
澤教授は、六甲道地区の再開発の影響を指摘する。低層住宅と商店街だった同地区は、1995年の阪神・淡路大震災後に再開発地区に指定された。現在では高層マンションや商業施設が立ち並び、灘区の中心地となっている。「商業施設にはチェーンの飲食店や居酒屋が入る。学生を含めた人の流れが六甲道に集中するようになった」と、阪六衰退の要因を考察する。
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