◎【1月号掲載】学生に伝える 遺族の思い

●「今も思いは変わらず」

加藤貴光さんの母、加藤律子さん

加藤律子さんは西宮市に下宿していた息子の貴光さん(当時=法・2年)を亡くした。憧れの神戸大に進学し、国際平和の懸け橋となるべく海外留学を目指していた矢先の死。律子さんは「日常生活を送っていても、自分の中に95年で止まったもう1つの時間軸がある。当時の悲しみや無念さは今もそのまま」と話す。

命の大切さを訴える講演を年20回以上行い、息子のことを話し続ける律子さん。学生を相手にすることも多いが「当時の悲惨な経験だけを話しても伝わらない」。貴光さんの一生懸命だった生き様と、息子を失った悲しみを自分がいかに乗り越えようとしたかを伝えることで、聴衆が命の尊さを意識するきっかけになると考えている。

最近は神戸の街を訪れるたびに「人々の思いやりの心が薄れている」とも感じている。震災直後、貴光さんの被災現場で通りすがりの人からも励ましの言葉をもらった。今では涙を流しても、声を掛ける人はいない。「災害を通じて芽生えた心まで風化させてはならない」。

今の神戸大生に「命に限りがあることを意識して、毎日を大切に過ごしてほしい」と律子さん。自分の経験を語り継ぎたい相手は、未来を背負う若者だ。「かつて同じ年ごろで夢を絶たれた学生がいたことを知り、自分の気持ちにスイッチを入れてほしい」。【田中謙太郎】

●「この一瞬を生きて」

上野志乃さんの父、上野政志さん

20年前の1月17日。上野政志さんは娘の志乃さん(当時=発達・2年)を亡くした。下宿で友人と徹夜でレポート課題を仕上げて、寝入った直後に被災。崩れてきたがれきの下敷きになった。政志さんは「当時のことは今でもよく覚えている。娘の志乃が死んだ時の悲しさ、つらさは20年たっても変わらない」と語る。

「娘の本当の意味での死は、世間から完全に忘れ去られること」と政志さん。だからこそ、「震災で亡くなった人たちのことをメディアが伝えていくことには意味がある」。

震災から20年がたち、世間の当時への意識が薄れてきたと政志さんは感じている。興味を持てなかった学生が震災を意識するためには「被災した人に会って話を聞く、東日本大震災などの被災地に行ってみるという『体験学習』が必要だ」と語る。「体験して初めて分かり、感じることがある。被災地へボランティアに行き、困っている人に寄り添って話し相手になるだけでもいい」と考えている。

政志さんは「而今(にこん)」という言葉を大切にしている。仏教用語で「ただ、今、この一瞬」という意味だ。今を大切にして生きる。今日より良い明日はないと政志さんは考える。「1日1日を後悔しないよう精一杯生きてほしい。親より先に死ぬようなことはしないでほしい」と神戸大生にメッセージを送った。

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