国際協力研究科の木村幹教授の著書『日韓歴史認識問題とは何か 歴史教科書・「慰安婦」・ポピュリズム』(ミネルヴァ書房)が第16回読売・吉野作造賞(読売新聞社、中央公論新社主催)を受賞。14日に東京で贈賞式が行われた。日韓関係を研究者の立場として考察する意味とは何か、木村教授に聞いた。
読売・吉野作造賞は人文社会系の優れた論文や単行本を顕彰する学術賞。『日韓歴史認識問題とは何か』は、日韓両国における歴史認識に関する各時代の言説を冷静に分析したことが評価された。グローバル化によって韓国にとっての日本の重要性が相対的に低下したことや、論争当事者の世代交代を背景に両国の政治的エリートによる調整が批判され、互いの世論が直接ぶつかり合う時代へ移行したことが論じられている。
木村教授が研究対象として韓国を選んだのは、言語の習得が容易で比較的研究しやすい地域だったからという。「韓国に元々思い入れがあったわけではなかった。だから(韓国を)突き放して見ることもできる」との言葉通り、研究にあたっては俯瞰的な視点を重要視する。「ジャーナリストや外交官は現場のミクロな情報に振り回されることもある。研究者は現場の情報収集は弱点だが、マクロの視点で論点を整理するのが仕事」と語った。
感情的な対立が起こりやすい日韓関係を私たちはどのように考えればよいのだろうか。木村教授は「立場の異なる人にも分かるような理屈を立てなければいけない」と話す。「大規模な戦争が隣の国同士で起こりにくくなったので『隣の国だから仲良くしないといけない意味』はなくなってきている」
しかし日韓関係を軽視しているわけではない。「韓国は第3位の貿易相手国でG20(20カ国・地域が参加する国際会議)にも含まれている影響力の大きい国。少なくとも敵に回すと損だ。災害救援の相互援助やエネルギーの融通など、隣の国としかできないこともある。韓国と付き合うとどういう利益が具体的にあるか言葉にする必要がある」と主張する。
歴史認識問題が顕在化したのは1990年代のことで木村教授いわく、「約20年前でそろそろ忘れられ始める時期」だ。「(受賞は)メディアや評論家の人たちも日韓問題をとらえなおさないといけないと感じていることの表れだと思う」と韓国研究の重要性を訴えた。
※おことわり
本記事の配信当初、記事冒頭の写真は木村教授を写した別のものでしたが、木村教授から新たな写真の提供があったため31日に差し替えました。
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