【コラム伏流水】東北と神戸 継承の道しるべに思う

 初めて東北の地を踏んだのは2011年8月のことだ。宮城県気仙沼市の、元は駅があった場所に、全長約60メートルの大型漁船が打ち上げられていた。眼前の巨体に思わず息をのんだ。

 漁船は津波の威力を伝える象徴となったが、被災者につらい記憶を呼び起こす存在にもなった。12年の暮れに再訪した際、現地に住む40代の女性は「取材に来たテレビカメラの前で『船を残したい』と言うとき、緊張してのどがカラカラだった。それくらい保存を訴えるには勇気が要る」と話していた。結局、漁船は13年秋に解体される。

 時は流れ15年12月。阪神・淡路大震災の犠牲者を追悼する目的で毎年開かれている「神戸ルミナリエ」を訪ねた。慢性的な資金難で規模は年々縮小。「鎮魂の意識が薄れ、ただの観光行事と化しているなら開催する意味はない」との声もある。

 語り継ぐための道しるべは諸刃の剣になりえる。報道もしかり。「問いかけること自体が被災者の心の傷をえぐることになるのでは」。葛藤はいつの間にか私を東北から遠ざけていた。

 ルミナリエの会場で島根県から来た夫婦に話を聞くと「初デートの場所なんです」と満面の笑み。震災の象徴が新たな思い出を生み、忘れられない存在になる。そんな受け継がれ方があっても良いかもしれない、との思いが去来する。

 考えるうち、気仙沼の今の様子が気になり始めた。あの大津波からまもなく5年。再び足を向けてみよう、と思う自分がいる。

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