【コラム伏流水】本当に取材したい相手

阪神・淡路大震災22年 相模原市で昨年7月に起きた障害者殺傷事件では、神奈川県警が犠牲者の実名を公表しなかった。各紙報道によれば「遺族の強い意向を尊重した」結果だという。

 ニュースの当事者に報道関係者の取材が殺到する「メディアスクラム」が度々起きてきたことを考えれば、匿名発表の判断はあり得る。一方で、普段の殺人事件と異なる県警の対応に「障害者への差別意識が根底にある」「犠牲者一人一人が生きた証を残せない」との批判も上がった。遺族自身が実名を公表する動きもある。

 日本新聞協会は「新聞は歴史の記録者」としている(2013年「新聞の公共性と役割」)。客観的な事実を追求し、人々の営みを広く市民に分かる形で残すのが記者の仕事だという。

 だが歴史を記すために最もインタビューすべき相手は、記者の問いに答えない。すなわち犠牲者本人だ。本人の思いを直接聞くことが叶わないのなら、関係者に当たるしかない。そうして記事は生者の論理で書かれ、伝えられる。「遺族の意向」も生者の論理の範囲を超えられない。

 私もまた彼岸との距離を感じる記者の一人だ。小欄上の記事でも触れた神戸大生、上野志乃さん=当時(発達・2年)=が阪神・淡路大震災で亡くなる直前、佐用町の実家で父・政志さんと見た映画のタイトルは「生きてこそ」だった。志乃さんは死後、その題に何を思ったのか。もはやその問いを直接投げ掛けられない現実に、命が失われることの途方もない悲しさがある。

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