カッター部事故1ヶ月? 波風強まりコース変更 転覆現場は特殊な地形

8月6日に淡路島・由良港付近で神戸大男子端艇部員が乗ったカッターボートが転覆、全員無事救助された事故。事故の重大さは見過ごせないが、シリーズ?で伝えたように、メディアの事情で実際以上に大きい事故として伝わった。では、事故はなぜ起きたのか、端艇部顧問で船舶安全学が専門の海事科学研究科・古莊雅生教授へのインタビューから探る。<玉井晃平>

●帆走と手漕ぎで数日航海 恒例の「本巡航」で起きた事故

古莊教授は、「今回の転覆事故では、みなさまにご心配をお掛けした」と述べ、メディア研の電話取材に応じた。

男子端艇部は毎年夏に、深江発着で海上を数日~十数日かけて航海する「本巡航」が恒例行事。
カッターボートは船体の長さが約9メートルの船で、風がある場合は帆を張って「帆走」することができ、無風や逆風の場合は12人の漕ぎ手で漕ぐ「撓漕(とうそう)」をする。巡航では、漕ぎ手のチームワークや、気象条件をみながら帆走と撓漕をどう組み合わせるかなどを通じて、部員たちが大きく成長する行事だ。
同部のサイトやツイッターによると、過去5年の本巡航は神戸を出て明石海峡を通過し小豆島や香川県高松市沖の女木島に寄港し、深江に戻るコースだった。

●初めての大阪湾一周コース 「難易度は下がったはず」

古莊教授によると、今年の本巡航は、8月3日から10日までの8日間の予定だった。ただ、例年と違ったのはコース。今回は大阪湾を時計回りに1周して戻るコースだった。
少なくとも、今回乗り組んでいた3年生?1年生は、本巡航でこのコースの経験がないことになる。なぜこのコースになったのかは、「学生が決めたこと」(古莊教授)という。
古莊教授は、「知る限り、過去にこのコースで(本巡航を)行なったことはない」としたうえで、「距離が短い上に、湾内の穏やかな水面を航行するため(これまでの播磨灘の本巡航より)難易度は下がったはず」という。


(画像:端艇部のツイッターには出航直後と思われる写真が公開されている。コメントには「今年も夏の本巡航が始まりました。夏の日差しよりも強く、八日間の航路を漕ぎ切ります!」とある。8月3日14時23分にアップされている。<一部画像を加工しています>)

●海上保安部には航海の計画書提出 大学には「学外活動届」出さず 

古莊教授は、公認課外活動団体が合宿や学外での対外試合の際に学務部課外活動支援課に提出することになっている「学外活動届」は、提出していなかったことを認めた。「学外活動届」の提出は、顧問教員から主将への提出を指示していたものの、「主将がカッターの海事科学研究科への借用願が大学当局への届け出と思っていたという認識の違いがあった」(古莊教授)という。
一方で、端艇部は神戸海上保安部には航海の計画書を事前に提出していた。

●波風が強まりコース変更 湾内に入る水路で「後ろからの波」

古莊教授の話から経緯を再現する。
端艇部のカッターボートは、事故前日大阪湾をいったん出て、紀伊水道側の和歌山市の北西部にある西脇漁港に寄港している。
事故当日の8月6日の早朝に西脇漁港を出発し、淡路島中部東岸の洲本港を目指して出航した。途中、船舶事故が多いと言われる紀淡海峡の友ヶ島を西に進むが、ここは無事通過したことになる。
しかし、「航行中に波風が強まったため、目的地を当初の洲本港から、(約7キロ手前の)淡路島南部の由良港に変更した」(古莊教授)という。

事故は由良港到着を目前にして発生した。
由良港は、細長い砂州状の島によって周りを囲まれた水域にあり、外海とは南北に一本ずつある狭い水路でのみ繋がっている。
「カッターボートは南側の水路を通過し、湾内に入るところで後ろからの波を受けて転覆した」(古莊教授)。


(事故現場となった淡路島由良港=洲本市=の地形。南側の細い水路を入ろうとして、カッターボートは転覆した)

そして、午前10時ごろ、和歌山海上保安部に118番通報が入る。
朝日新聞デジタルは、「神戸大学端艇部の男性から『カッターボートが転覆し、海に投げ出された』と118番通報があった」と報じている。

転覆した位置は、さいわい岸辺から30メートルのところで、「もっとも長く海中に放り出されていた人でもその時間は5分だった」(古莊教授)ことから、全員救助につながったとみられる。
現地の由良漁協や消防は発生直後から救助に尽力した。
サンテレビは、「22人が淡路島の洲本市由良まで自力でたどり着き、転覆していたボートにしがみついていた1人が漁船に救助された」と報じている。映像には、地元の宿泊交流施設に救助され、ほっとした表情の部員たちが映っている。
転覆の場所について、部員の一人は「もうそこの波が荒くなってるところなんですけど。ここの前の狭くなってるところ」と記者のインタビューに答えている。(サンテレビニュース動画:https://www.youtube.com/watch?v=XX354ZnNnYk

古莊教授によると、学生たちは、8月21日までに全員日常生活に復帰している。ボート内にあった学生の持ち物も、大半が海に沈むことなく学生の手元に戻ったという。

●1993年の転覆事故で定めた「出航中止基準」

事故の原因はどこにあるのか。詳しくは調査中だ。
1993年にも、同部は鳴門で転覆事故を起こし全員救助されるという事故を起こしている。(「1993年にも転覆事故」https://kobe-u-newsnet.com/2019/08/07/1993%e5%b9%b4%e3%81%ab%e3%82%82%e3%82%ab%e3%83%83%e3%82%bf%e3%83%bc%e9%83%a8%e3%81%8c%e8%bb%a2%e8%a6%86%e4%ba%8b%e6%95%85%e3%80%801989%e5%b9%b4%e3%81%ab%e3%81%af%e3%83%9c%e3%83%bc%e3%83%88%e9%83%a8/)。
この事故の後に、「波や風のデータをもとに具体的に基準を定めた」という。巡航のしおりには、「出航中止基準」は、風については「強風時、波頭が砕け白波が出ている。(風速8m 以上、ビューフォート 5 以上) 」、波は「波長 5m以上のうねりがあり、かつ波高1m 以上ある 」、台風については「航海予定時間内に強風域(風速15m 以上)に近づく可能性がある 」とある(2014年端艇部「本巡航のしおり」)。
古莊教授は、8月6日は、部内でこの出航中止基準には達していないことを確認して出航した、という。
しかし当日は、九州を北上中の台風8号の影響で、前日の8月5日午前4時26分に「波浪注意報」が出され継続中。6日午前2時30分には現場海域に「海上強風警報」が出され、午前5時35分には「海上暴風警報」に切り替わっていた。

●鍵は転覆現場の特殊な地形 波風や水流「事前に調べていなかった」

今回の事故の鍵は、事故現場の特殊な地形にある。細長い島が防波堤となり天然の良港とされる由良港だが、入港するには島と陸地の間の水路を通過する必要がある。
古莊教授によると、端艇部は、「昨年の巡行で問題の水路を通過していた。その際問題なく航行できたこともあり、波風や水流などの情報を詳しく調べてはいなかった」という。

台風接近の気象条件。急なコース変更。そのとき、由良港沖の狭い水路ではどのような波が発生していたのか?
どの時点で、波風が強まったのか。それは予見できなかったのか。
そして、前回の事故で定められた基準に漏れはなかったのか。
調査報告が待たれるところだ。

【訂正】「カッターボートは船体の長さが約10メートルの船で」としていましたが、「カッターボートは船体の長さが約9メートルの船で」の誤りでした。訂正します。▽「学外活動届」の提出は、顧問教員から主将への提出を指示していたものの、「主将がカッターの海事科学研究科への借用願が大学当局への届け出と思っていたという認識の違いがあった」という部分を追加しました。▽「転覆した位置は、さいわい30メートルの沖で」とあるのは「さいわい岸辺から30メートルのところで」と、より正確な表現に修正しました。(2019年9月9日11:50 編集部)

【関連記事】
▽9月6日「カッター部事故1ヶ月? 『和歌山沖』? 続報少なく修正されず」
https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/68072b581ae272a731a36c16448851a2

▽8月23日「問われる課外活動の届け出 形骸化を指摘する声も」
https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/136c4db70b4f48843282c3ba1719f64b

▽8月7日「1993年にも転覆事故」
https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/6ec9bc3f44bbc181214cda776a6a75f5

▽8月6日「海上暴風警報が出ていたのになぜ出艇」
https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/d9b61cb8806bf1189a7d2643a7e68da2

▽8月6日「商船大からの伝統ある端艇部 『本巡航』で何が」
https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/b4dda506930b6e335e6bab971b996308

▽8月6日「男子カッター部艇が淡路沖で転覆 部員は全員無事」
https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/6231d62000ad24d1760a40511bd35c9f

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