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- 現役学生約40人が参列 若い世代が加わった今年の献花式
1月17日午後、六甲台第1キャンパスと深江キャンパスで、神戸大の阪神・淡路大震災の慰霊献花式が行われた。去年は姿のなかった現役学生。しかし、今年は六甲台の慰霊碑前に少なくとも40人の学生や留学生が参列し、この10年ほどの献花式では見られなかった光景があった。その背景には、講義やツイッターでの教員からのメッセージや、学生のSNSによる呼びかけがあった。<中村成吾、中島星翔>
静かな音楽が流れる六甲台本館前の木立の中の慰霊碑前。いつもと違い、厳かな雰囲気につつまれたキャンパスに少し戸惑い気味に訪れた軟式野球部の下井拓己さん(法4年)と藤岡真菜さん(保健4年)に、年配の女性が声をかけた。報道関係者に促され2人に近づいたのは、震災で亡くなった鈴木伸弘さん(当時・工3年)の母・綾子さん。伸弘さんも、25年前は軟式野球部員だった。
(写真:軟式野球部の藤岡さん、下井さんに声をかける故・鈴木伸弘さんの母・綾子さん。2020年1月17日13時18分)
「マネージャーさんよね?メンバーはたくさんいるの?」と綾子さんが話しかける。藤岡さんが「たくさんいますよ。写真に収まらないくらいです」と返すと、綾子さんの顔がほころんだ。下井さんが「2年ぐらい前に西日本の大会に出て、頑張ったんですよ」と最近の部の活躍を報告すると、綾子さんは穏やかな笑みを浮かべた。
「卒業しても頑張ってね」と声をかけると、2人は大きく頷いた。
綾子さんは、2人に「息子はとにかく野球が大好きで。中学、高校、大学と野球を続けて。阪神の大ファンだったのよ。あとオートバイで走り回ったりして、とにかく頑張っていたんです」。息子の伸弘さんのエピソードがとめどなくあふれだす。
「部では頑張っていますか?合宿や遠征もあるのよね。息子の分まで頑張ってね」。
2人は、綾子さんの一言一言に耳を傾ける。下井さんは、「僕らは4年生なので引退したんですが。でも、頑張ります」と、これからも元軟式野球部員として、また社会人として頑張ることを綾子さんに約束した。
綾子さんは、息子と同じ軟式野球部の後輩が献花式に来てくれてたことに、「それは嬉しいです」と満足そうだった。
今回献花式に参列したきっかけについて、下井さんは、「野球部のLINEグループで、軟式野球部の先輩も亡くなっているって情報が回ってきた」とあかす。藤岡さんは、「初めて(献花式に)来たんですけど、(式について)知っていたら(これまでも)来ていたと思います」という。
「同じ部活の人が震災で亡くなったことは今回初めて知った」という藤岡さん。下井さんは「僕はなんとなく知っていたけど」と話す。綾子さんと言葉を交わしたことで同じ部活の先輩が亡くなった事実を実感した様子だった。
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(写真:慰霊碑を少し離れて見つめる学生ら。留学生の姿も見える。去年はこうした光景は見られなかった。2020年1月17日12時45分)
様々な呼びかけが学生たちを動かした
メディア研の取材によると、今年の献花式には現役の学生、少なくとも40人が参列した。この背景には講義やツイッターで教員が献花式の開催を伝えたことや、学生同士のSNSによる情報提供があった。
講義の中で
授業の中での教員の呼びかけで参列したのは、農学部1年の羽根田実和さん(滋賀県出身)と経済学部1年の河田彩花さん(大阪府出身)。「日本史の授業で、1月8日に休講になった分に献花式の感想を書きなさいという課題が出たので来た」という。理学部の川上竜司さん(島根県出身、19歳)は、「阪神・淡路大震災は名前を知っているくらいだったが、同じように進学した神大生が下宿先で亡くなったという話は、悲しい。神戸に来たのも何かの縁かと思い参加したかった」。本田凪さん(農1)は、「同じ大学に在学中に亡くなった人達の存在を知ってぜひ献花に行きたいと思った」、「授業で亡くなった方の好きだったことや具体的な話を聞いて実感が湧いた」。
教授のツイッターで…
「国際協力研究科の木村幹教授や松並潤教授から教えてもらって来た」というのは、インドネシアからの留学生のウィディ・ウランダリさんとプルダニ・ブディアルティ・ハユニン・ティヤスさん(いずれも修士2年)。インドネシアでも地震や津波災害があるため、自然災害に関心があるという2人は、「日本に来る前から阪神・淡路大震災という大きな悲劇があったことを知っていた」、「亡くなった方への敬意を表するために参列した」と口をそろえた。
丸子敬仁さん(経営学研究科・博士後期課程2年、27歳)は、「セレモニーに参加することにも意味がある」という木村幹教授のツイートを読んでいたので、論文提出の際に立ち寄ったという。図書館の震災展示にあった長田の焼け跡の画像を見て、「こんなことがあったんや…」と言葉も出なかったという。
部活の先輩の死を聞いて…
部活やサークルのつながりで参加した学生もいた。
震災で亡くなった応援団長・高見秀樹さん(当時・経済3年)の後輩にあたる、応援団の宮脇健也さん(経営4年)は後輩団員たちを連れて参列した。「去年来られなくて後悔した。震災を知らない1年生にも伝えたいと思った。今まで震災に対して現実味を感じていなかったが、僕たちと同じような年代の人が亡くなったことを知り、(震災を)実感した」と話した。
「昨日部活があって、そこでOBの方が亡くなったと聞いて来ました」という混声合唱団アポロン所属の村松真由子さん(19)は、「たくさんの神大生が亡くなっていると聞いて驚いた。神戸に下宿して初めてこの日を迎えるが、地震は避けられないのでこれからの対策が大事だと思う」と話す。
(写真:献花する1年生応援団員ら 2020年1月17日12時51分 六甲台第1キャンパス慰霊碑で)
号外やブログ記事で…
メディア研の告知号外を受け取って来たのは、北海道出身の国際協力研究科1年・松本一也さん(23)。「テレビを見ていると神戸の人には特別なことなんだなと思う」。
「記事を見て学生が去年一人も来ていないのに驚いた。こういう活動をしているし参加しなければと思った」というのは、震災救援隊で活動していたシステム情報研究科1年の江藤恒夫さん。「知らない人の割合が増えると忘れられる。時間がたてばたつほど、伝えていくことが必要」。
太田有祐さんは土木や災害を研究する修士1年。「メディア研のブログで、六甲道駅が実際につぶれている写真などを見て衝撃を受け実感がわいた。もっと周りにも知ってほしい」と投げかける。
一方、神戸出身の遠藤奈生さん(国人4年、22歳)は、「小・中・高すべて神戸市立だったので震災教育があったが、大学ではあまりみんな詳しく知っているわけではないことに気づいた。自分自身も初めて参列した。もっと大学内で意識している人が多くてもいいんじゃないかと思う」と、大学内での教育に期待する。
(写真:今年の献花式には、学生や教職員のこれまでにない長い列ができた 2020年1月17日12時46分)
了
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