大学サイトに掲載された学長メッセージが波紋を呼んでいる。「基本的には対面による授業を」という文言に、現実とは違うという声が上がっている。一方、「本学でも学生同士などによる飲み会や会食による感染が報告されている」という1行が「感染が学内でも広がっているのではないか」という憶測を一部で呼んだ。大学に取材すると、「基本的には対面」の全学の建前と、各学部で判断する実態のズレが浮き彫りになった。「クラスターでなければ発表しない」という情報公開のあり方も問われそうだ。<取材班>
(画像:藤澤学長のメッセージが掲載された神戸大サイトのスクリーンショット)
オンラインが多いのに「基本的には対面」のメッセージ
4月13日付の藤澤正人学長のメッセージが波紋を広げている。
ひとつは、「基本的には対面による授業を開講し、部局の判断に基づき、必要に応じて遠隔授業を実施することといたしました」という点だ。
これを報じたニュースネットのツイッターには、「基本的に対面? ??」というリツイートや、「ゼミ除いてすべて遠隔授業の俺は神大生でないのかもしれない」という反応があった。
『基本的には対面』という学長の旗印とはうらはらに、あいかわらずオンライン中心の授業を行なっている学部の学生からの声と思われる。
(画像:学長メッセージに違和感のリツイート)
発表は理学研究科の1人だけ 「ほかにも感染者がいるのでは」という声も
もうひとつ注目されたのが、学長メッセージの中の「本学でも学生同士などによる飲み会や会食による感染が報告されています」というくだりだ。
この一文は、すでに感染が学内でも広がっているのではないか、という憶測を一部で呼んだ。ニュースネットには、4月7日に「神戸大でも感染者が出ているのに大学は全然発表していない」という投書もあった。
折しも、学長メッセージ発表とあい前後して、海洋政策科学部は、「感染拡大防止の観点から、(中略)少なくとも4月末までは遠隔授業を基本とすることを決定しました」(4月12日付 http://www.maritime.kobe-u.ac.jp/news/2021/20210412.html )と公式サイトで伝え、法科大学院も、「4月13日(火)から19日(月)まで、全ての授業をオンラインで実施します。自習室・自習棟は、16日(金)18時までは私物の回収のための入室のみを認め、その後20日(火)朝まで閉鎖します」(4月12日付、法学部サイト)という動きを見せた。
こうしたタイミングで、4月12日には理学研究科が、学生1人が新型コロナに感染したと公式サイトで発表。3日に陽性が確認されたが、発表は9日後だった。
こうしたことが、「すでに感染は学内で広がっているのではないか」、「感染者がでているのに大学は隠蔽しているのではないか」という不安に拍車をかけるかたちとなった。
「クラスターでなければ発表しない」と広報課
感染した人に責任があるわけではなく、気をつけていても感染した例が報じられている。数字や、事例は淡々と情報を出し、どう判断するかの材料を提示すべ きだろう。
しかし、神戸大広報課はクラスターでない限り公式に発表はしないという姿勢だ。14日午前のニュースネットの取材に対し、同課は「学生同士の交流感染は確認しているが、クラスターが起きない限りは、個人情報の観点などから一般的に(感染の発生を)オープンにしていない。学部も教えることができない」という。
また、「法科大学院や、海事科学部でコロナの感染者が出たわけではない」と、オンライン強化を打ち出した2つの部局での感染者発生は否定した。
大学全体は「基本的には対面」の建前 各学部で都度判断の実態
4月13日夕方になって、大阪府の吉村知事は対策会議を開いて府内の大学にはオンライン授業への切り替えを要請する方針だと、各報道機関が報じている。
同じ日に学長の「基本的には対面でいく」というメッセージが流れたことは、予定された原稿だったとはいえタイミングが悪かった。
14日の取材に対し、神戸大広報課は「大学全体としては、依然として対面で授業を行う方針だ。対面かオンラインかは、各学部でその都度判断していく形になる」としている。
実は、新年度を前にして各学部が発表したメッセージを読むと、「対面中心か、それとも遠隔中心でいくのか」のニュアンスには温度差があった。
国際人間科学部は2月27日に、サイトで「神戸大学では『対面による授業を中心に開講する』という方針を立てました」と大学の方針を引用してメッセージを掲げた。( http://www.fgh.kobe-u.ac.jp/ja/node/992 )
ところが、大学の公式サイトは3月10日、「感染状況を踏まえつつ、感染防止と学生の学修機会の確保を両立させるため、対面による授業と遠隔授業を併用して実施します」( https://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/sub_student/2021_02_05_01.html )とトーンダウン。
3月17日この「齟齬(そご)」について学務部学務課に取材すると、「神戸大では、『対面授業を中心にする』という方針を定めてはいます。ただ、部局の判断に基づいて遠隔も、という方針も出しているので、部局によって、事情も違いますし、割合も異なると思います。それで、学生が混乱しないように、全学ページではあのように記載しました」と答えた。
大学全体は「基本的には対面」の建前をとりながら、各学部で都度判断するという実態があるというわけだ。
「基本的には対面」の全学の建前と、各学部で判断する実態のズレが浮き彫りになった。
「対面重視」に立ちはだかる感染急増の危機
文科省は3月4日、「新年度の授業は学生に寄り添い、学生が納得できるような対応を」、「対面授業の実施について適切に取り組むこと」と全大学に文書で通達を出している。
学生や保護者の声、文科省の意向、そして緊急事態宣言の解除という流れで一気に「対面重視でいこう」と舵をきった各大学だったが、京大では学生グループにクラスターが発生、4月12日夜になって7人の陽性が確認されるなど、再び「大学クラスター」の発生が現実のものとなってきている。
新年度スタートとともにコロナウイルスは蔓延の状況で、大阪・兵庫は変異株の感染が急増している。4月14日には兵庫県内で過去最多の507人が新型コロナウイルスに感染したことが発表されるなど、危機的な状況だ。
不安な社会が疑心暗鬼を生む。「クラスターでなければ発表しない」としという情報公開のありかたでよいのか、その姿勢が問われそうだ。
正しい情報を速やかに共有したうえで、科学的知見を理解した行動でベストの対応を尽くす。
大学という知の集団が、どう行動するかが問われる春だ。
●神戸大学サイト 「令和3年度新学期を迎えて 藤澤正人学長からのメッセージ」(2021年4月13日付)= https://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/sub_student/2021_04_13_02.html 。
了
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