コロナ禍の教育と学生生活③ 大学、教員から見たオンライン授業

 大学側は、コロナ禍の教育をどのように考え、対応してきたのか。ニュースネットは国際教養教育院長の大月一弘教授、法学部長の高橋裕教授にZoomでインタビューを行った。オンライン授業での工夫点や試験形式、今後の授業形態について尋ねる中で、大学教員側の視点が見えてきた。<佐藤ちひろ、笠本菜々美>


(写真:神戸大本部)

 2021年度の授業は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でオンライン授業中心となった。ニュースネットが学生に行ったアンケート(コロナ禍での教育と学生生活①  ~オンライン授業の実態~ – 神戸大学ニュースネット/メディア研ウェブログ )にはハイブリッド授業や対面授業を希望する声が多く見られたが、大学は何を基準に授業形態を決定しているのか。


(画像:ニュースネットのオンライン取材を受ける大月教授 画面左)

安全性を一番に考慮
 国際教養教育院長の大月教授は「授業形態に関しては、医学部の専門の先生の意見を聞きながら判断している」と言う。「他大学は、主に受講者の人数で判断していると思うが、神戸大は複数人が同時に発話することが危険だということも考慮している。それを踏まえたうえで、安全性を考えながら対面授業が実施可能か検討している。1年生は外国語を中心にオンライン授業が多いのが他大学との違いだと思う。大学側で一定の基準を設け、最終的には学部別に判断することになる。密にならず、人数が少ないなら対面授業になる」と話す。また、「外国語は口の動きが重要であり、授業で複数人が同時に発話することから、オンライン授業がいいのではという判断がされた」とした上で、「外国語がオンラインの状態で、対面の授業が増えてしまうと外国語の授業を大学で受けなければいけなくなる。その影響もあって、他教科でも事実上遠隔授業が増えたのではないか」と外国語の授業がオンライン形式になることが他の科目の授業形態にも影響を与えた可能性があるとした。
 また、授業形態の決定については、「コロナがもうすぐ収まるのではないかという期待とともに決定しているので、振り切れない部分もあって難しい。先生的には、(慣れているので)対面授業の方が楽。学生の中には(感染リスクの観点から)対面を嫌がる人もいて、そういう人がいると遠隔にせざるを得なくなる」とオンライン授業による教職員側の負担の増加と判断の難しさを口にした。

 試験形態の決定も判断が難しいようだ。法学部では、当初原則対面試験とされていたものの、1週間前になって「可能なかぎり、遠隔方式で実施」と発表された。

2021年後期、当初は原則対面試験の方針
 法学部は、2021年9月24日付で、2021年度後期の試験方針について「すべての講義で、原則として試験は対面で実施」すると発表した。ただ、試験前に新型コロナウイルス感染症が急激に流行したため、2022年1月26日付で2021年度後期・第4クオーターの定期試験を「可能なかぎり、遠隔方式で実施」するという文書が出され、実際には試験の多くが遠隔方式で実施された。

試験を対面で行う理由は、学生に説明されず
 では、なぜ当初、対面試験を原則とする方針を出したのか。2021年9月24日付の文書では「兵庫県の要請では、『ワクチン接種の進捗状況等を踏まえつつ、引き続き感染防止の徹底を図るため、オンライン授業を積極的に活用』とされています。神戸大学においても教職員・学生のワクチン接種が一定程度進んでいることを踏まえつつ、法学部では、ゼミや外書購読・応用研究などの少人数講義とクラスの規模が小さい一部の講義について原則として対面での授業を実施し、それ以外の比較的クラスの大きい講義については遠隔での授業を実施します。また、全ての講義で、原則として試験は対面で実施します」とあるものの、試験方針を対面とする理由の説明がなかった。
 

(画像:ニュースネットのオンライン取材を受ける高橋教授 画面下) 
 
 ニュースネットの取材に対し、法学部長の高橋教授は、自身が「試験方針が出された9月24日よりも後に法学部長に就任したため、直接試験形式の方針にかかる判断をしたわけではない」としたうえで、「試験の実施方法で考慮することは、感染状況の見通し、学生や教職員の安全確保、適切な成績評価の実現性」だと話した。また、1月26日付で2021年度後期・第4クオーターの定期試験を「可能なかぎり、遠隔方式で実施」するという文書を出す決定をした際は、テスト後の学生同士の接触や、学生が大学にくるまでのバスなどでの感染をかなり心配したという。適切な成績評価という観点では、公平性、公正性を重視しているという。
 取材を通して、高橋教授は学生や教職員の(新型コロナウイルスに感染しないための)安全確保を最重要視しているという印象を受けた。

「オンライン授業も対面授業も両方良さがある」
 教員の中には、学生の勉強時間が増えているなどの理由から、相対的に対面授業よりオンデマンド授業の方が良いと思っている先生も多いという。大月教授は、「神戸大は環境が整っているので、(教材面でも)工夫の仕方次第でオンライン授業にしても対面授業にしてもうまく対応できる。オンライン授業も対面授業も両方に良さがある。今後は、対面授業だけど、全員パソコン持参の授業が出てくると思う。ブレンド型授業も出てくるのではないか。オンライン授業には、大教室に比べて距離が近い(Zoomなど)や、繰り返し見ることができるといった利点ある」と話した。
 高橋教授によれば、オンデマンド授業のメリットは「リアルタイム授業に比べ話の脱線が少なく、筋道の立った内容にできる」点だという。この観点から言えば、「オンデマンド授業の方が、密度が高いかもしれない」と話した。また、「これからパワーポイントの見せ方などのノウハウも構築され、授業動画も変わっていくだろう」と語った。
 さらに、20人程度の学生が受講する自身のゼミをハイブリッド型にしたところ、「多いときで10人を超えるくらいの学生が来て、少ないときは対面授業に来たのは3~4人だった」という。「教室に何人学生がいるかにもよると思うが、どうしても教室にいる学生を見ながら授業をする傾向になってしまう。両方に目配りするのはなかなか難しい。チャットでオンライン受講者からコメントが来ても、反応できないこともある。」と話した。
 また、アンケートで、「楽だからオンライン授業がよい」という意見があったことに対してどう思うか聞くと、「オンライン授業になったことで時間をうまく活用することができるようになり、学生の可能性が増えたのではないか。授業は省エネの方がよい」とし、「今後もオンライン授業は積極的に活用すべきだと思う。いずれ授業は対面に戻っていくと思うが、完全に2年前(新型コロナウイルス発生前)に戻るのはもったいないと思う。個人的には少人数授業の充実ができればよいと考えている」と話した。

課題の採点は負担 しかし「学生が家で何をやっているか分からない」

(画像:「2021年度で授業で出された課題は多いと感じたか」という問いに対して、「多かった」、「かなり多かった」と回答した学生は合わせて52%だった)
 ニュースネットが行ったオンライン授業に関するアンケート(コロナ禍での教育と学生生活①  ~オンライン授業の実態~ – 神戸大学ニュースネット/メディア研ウェブログ )では、2021年度の授業に関して、約半数の学生が「課題が多かった」と回答し、「オンラインへの出席と称した課題が多すぎた」という意見もあった。課題の量に関して大月教授は、「昨年度(2020年度)、課題の量が多すぎると問題になったため、各学部の先生に『課題の量を考えてください』とは言っているが、『毎週学生とのやり取りをしましょう』とも言っているので、先生は課題を出すのかもしれない。また、日本の大学生が勉強をしないというのを変えたいというのもあると思う。先生も、学生がちゃんと勉強しているのか不安」と話した。課題をチェックすることは、先生にとっては負担でもあるそうだ。

 一方、高橋教授は、「学生に3回課題を出すと、2回目の課題の成績と3回目の課題の成績は同じになる傾向がある。つまり1科目につき2回くらいの課題の成績で学生の理解度はわかる。必要以上に多い課題はいらないのではないか」と話した。

試験形式にも議論がある
 また、同アンケートで「感染対策としてオンライン授業をしていると言っておきながら、試験は対面で行っているから。これは明らかに矛盾している」という意見もあった対面試験に関して大月教授は「例えば、物理や数学の、公式などを用いて解を求める形式の問題はネット検索が可能であり、知識がついているかを確認する目的のテストであるため、レポートにすると正当な評価が難しい。そのため、対面試験の意見が強い」と、公正性などの観点からオンラインで試験を実施することの難しさを述べた。
 高橋教授も成績評価方法について「これまで何十年間も、日本の大学全体で学生が家で試験問題に解答するということはやってこなかった。そのなかで、学生の理解度を問うのに適した問題パターンが蓄積されてきた。理解度を評価しやすい問題パターンを活かすには、対面方式の方がやりやすい科目がたくさんあるのではないか」と話した。さらに、「学生が家では何をやっているのかわからない。例えば、LINEなどを利用して試験問題の答えが学生間で出回るかもしれないという心配が一般論としてあるのではないか」と高橋教授は言う。やはり、知識問題や解の導出問題など、答えが一律で、調べれば答えがわかるような問題を出す場合は、対面試験がふさわしいという。
 しかし、高橋教授は「オンラインだからやりやすい試験もある」と話す。例えば、「学生に多くの資料を読解させて、分析させることが可能になる」という。対面試験ではすべての問題文を全学生分プリントしなければならないため、問題文が長いほどコストがかかるが、試験問題がオンラインで配布できれば、大学側が問題用紙を印刷する必要はないからだ。また、オンライン試験では時間を対面試験より長く設定することが可能である。

「学生が大学に何を求めているのか分からない」
 大学生活の在り方に関して、大学としてどのように考えているのか大月教授に聞くと、「大学生活(友達作りなど)に関しては、大学生活をどう考えるかということが大きい。大学としては、まずは、“教育の質”を維持することを優先した。語学の先生は、オンラインでの授業がやりやすいと話している人も多い」とし、「日本の大学生は、世界的に見て勉強しないといわれてきた。知識を覚える系の授業が多いが、これを変えていかなければいけない。個人的には、大学生活を考慮した方がいいと思っているが、学生が大学(大学生活)に何を求めているのかわからないので難しい。ハイフレックスの授業(ハイブリッド授業)をしても、学生はだんだん対面に来なくなる。学会でもオンラインで行われるようになり、学会自体は効果的に行われているが、交流が減ってしまっている。学生生活については、学生の方から何か言ってくれた方がいいのかもしれない。やれる範囲で考えると思う」と話した。


(画像左:「専門科目の開講形式として望ましい形式」として56.6%の学生が対面形式と回答した)
(画像右:「全ての講義がオンライン・対面両方で受講可能な場合、週に何回大学へ通いたいか」という問いに対して「週に2回」または「週に3回」と回答した学生が合わせて44%だった)

 高橋教授も学生の求める大学生活について疑問を投げかけた。ニュースネットが実施したアンケートで『専門科目は対面にしてほしい』という声と、『週2~3回大学に通いたい』という声がともに多かったことに対し、「ほとんどの授業が2年生後半からは専門科目になるが、『専門科目は対面にしてほしい』という意見と『週2~3回大学に来たい』という意見は整合性がないのでは。学生は毎日学校に来てくれるのか。アンケートに回答した学生の求める具体的な学生生活のイメージがしにくい」と指摘した。
 また、アンケートに「オンラインだと対面授業よりもモチベーションが上がらない」「意欲が低下してしまう」という意見が寄せられたことに対して、高橋教授は「逆に、オンラインだと安心して授業を受けられるという人もいるのではないか。モチベーションは人それぞれだと思う」とコメントした。
 一方で、コロナ禍での学生生活に対しては、「本来の姿ではないと思う。適正だとは思わない。教員としてもキャンパスに学生がいる方が嬉しい」と話した。

2022年度は対面授業増加の可能性
 来年度(2022年度)の授業形態について聞くと、「2021年と同じ状況であれば、対面を増やしてもいいのではと考えている。外国語の授業に関しても、ソーシャルディスタンス、マスクの上で対面でいいのではないかと考えている。基礎教養科目、総合教養科目も対面中心にしたいと考え、準備を進めている」と話した。大学としての対面授業を実施できる基準に関しては緩和される予定だという。
 そして、「来年度は対面授業が増えると思う。換気の状態も大事。(対面授業を)「やらない」から「気をつける」になっていくと思う。ワクチンの接種状況も考慮するが、ワクチン差別はしない」と話した。一方で、「(感染リスク等の理由で)授業に来られない人への配慮をし、公平にしなくてはいけないため、真面目な先生ほど、遠隔にした方が公平であると考える傾向がある。(公平性、感染リスクを考慮する必要があるため)まじめにやろうとするほどオンラインになる。」と判断の難しさを語った。

 最後に、「コロナが収まれば、対面にしろという声が強くなるし、コロナが増えればオンラインにしろという意見が強くなる。声が逆転する。先生のなかにも基礎疾患がある人やワクチンが打てない人もいる。何が一番重要なのかという話。オンライン授業の方が学生が沢山勉強してくれるという意識が強い先生もいて、オンライン授業に手ごたえを感じている先生も多い。来年度もオンライン授業がしたいと言っている先生もいる。どこを一番重要に思っているのかは人によって異なる。国は対面にしろと言っているが、個人的に、この「対面」は授業の質を言っているわけではないと思っている。神戸大学は大規模なので、大規模だからこその問題がある」とまとめた。 

学生と大学の間にギャップ 一番の課題は「大学側の情報発信」に
 
 大月教授は、取材後、「学生の皆さんと一緒になって、学生の皆さんが胸をはって「すばらしい大学」と言える大学を作りたいと思っている」と話していた。高橋教授は、「望ましい高等教育の在り方をみんなで考えるべき。議論ができるといい」と語った。

 取材後、ニュースネットが「大学と学生の間にほとんどコミュニケーションが存在しないために、両者の間にギャップが生まれてしまっている。大学側はこれを解消する努力をするべきではないか」と伝えたところ、大月教授からメールで返信が寄せられた。
 大月教授は毎年、各学部や各研究科の数人の学生とオンライン上で懇談会などを行い、学生の現状や意見を聞いているという。そのうえで一番の課題は「大学側の情報発信」にあるとした。大月教授は、大学側は「もっと学生に寄り添った細やかな情報発信を行う必要がある」とし、学生に向けた、より詳細な情報発信の重要性を強調した。一方で、「教職員の方も、コロナのような緊急事態になると、忙しくなり、こまやかな情報発信を行う余裕がない」とした。

 取材を通して、大学-学生間での十分なコミュニケーションが存在しないがために、大学は何を基準に、どのような過程で授業形態を判断しているのか学生には分からず、逆に大学側も学生がコロナ禍の学生生活に関してどのような思いを抱いているのかはっきりとは分からないという現状が明らかになった。
 このギャップを解消するには、大学側がもっと学生に寄り添う必要があるのではないか。例えば、授業形態に関する学生の意見をもっと広く集めることや、交友関係や精神状態など学習に影響を与える要素にも注意を払うことができるはずだ。
 また、その際には大月教授が指摘していた情報発信も重要になる。授業形態の判断方法や試験形式の決定方法をきちんと説明するだけでも大学-学生間のギャップは少しずつ埋まっていくのではないか。

 続く「コロナ禍の教育と学生生活④ 教員も悩み続けたコロナ禍の2年」では、教育学を専門とする神戸大の近田政博教授と生物学と価値創造を専門とするバリュースクールの鶴田宏樹准教授へのインタビューをもとに、コロナ禍で授業を行う教員の苦労や意識を紹介する。

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●コロナ禍の教育と学生生活① オンライン授業を問う=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/8be6ed21c39b9487113e39879034eed4

●コロナ禍の教育と学生生活②「友達0人」と答える2年生も=https://blog.goo.ne.jp/kobe_u_media/e/71aa7c63a83c3dec1e21381753a2eb4d

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了 

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