ニュースネットが神戸大学内で実施したアンケートや取材では、学生も教員も、オンライン授業の利便性を感じていることがわかった。しかし、デメリットとして学生は交友関係の希薄化や集中力低下を挙げた一方で、教員は成績評価の難しさなどを挙げており、オンライン授業に対する考えには、学生と教員では大きなズレがあることがわかった。
コロナ禍で、学生同士だけでなく、学生と教員が交流する機会も減っている。オンライン授業を活用し、これからの大学教育やキャンパスライフをより有意義なものにするためには、どうすればよいのか。取材を通して、学生、教員の声を相互に知ることの重要性が見えてきた。<笠本菜々美、佐藤ちひろ>
(画像:神戸大 六甲台本館 六甲台第1キャンパスにて)
学生にとってのオンライン授業 便利だが、集中力が続かない
神戸大生に向けて実施したアンケートでは、2021年度の授業がほとんどオンラインで実施された学生のうち、授業形態に満足している学生から、通学時間がかからないことにより、時間を有効活用できるという声が得られた。一方、オンライン授業だと周囲の目がなく、自分のペースで自由に学修できる反面、自分ひとりで勉強しなければならないことから、モチベーションや集中力の低下に悩んだという学生もいた。また、大量の課題に苦しむ声も多く挙げられた。
▼詳しくは「コロナ禍の教育と学生生活① オンライン授業を問う」
オンライン授業 交友関係や精神面にも影響
オンライン授業で困ったことについては、交友関係と答える学生が最も多かった。「大学の友達がいないから、課題の相談などできない(法・1)」と、交友関係の希薄化が学習にも影響を及ぼしていることが見受けられた。また、「オンライン授業で一週間が埋め尽くされると本当に外に出なくなるので気分もふさぎ込んだ(文・1)」、「画面を見続けることにより心身に疲れが溜まる(国人・3)」などと、ひとりで長時間画面を見続けることによる疲労や気分の落ち込みを訴える学生もいた。
▼詳しくは「コロナ禍の教育と学生生活②「友達0人」と答える2年生も」
オンラインで受けたい授業がある学生も
講義の開講形態について、学生は、教養科目はオンライン、専門科目は対面を望む傾向にあることがわかった。また、講義を対面・オンライン両方で受講可能なハイブリッド形式の授業を希望する学生も多くいた。さらに、全ての講義がオンライン・対面両方で受講可能な場合、大学に通いたい回数は週に2~3回とする学生が多かった。
「大学の情報発信」に課題
国際教養教育院長の大月一弘教授と法学部長の高橋裕教授は、授業形態や試験の形式を決定する際には安全面(感染リスク)を最も重要視したと話していた。感染状況が日々変化する中、安全面、成績評価方法など様々な観点を考慮して判断されているが、その判断基準や理由を明確に説明することがないため、学生からみると納得できない場合がある。大月教授の「学生が大学に何を求めているのか分からない」という言葉と、学生にアンケートを行った際にみられた大学の判断に対して納得できないという声は、両者で十分なコミュニケーションがなされていないことを表しているのではないか。
大月教授が「大学側はもっと学生に寄り添った細やかな情報発信を行う必要がある」と話したように、大学は情報発信を強化する必要がある。例えば、授業形態に関する学生の意見をもっと広く集めることや、交友関係や精神状態など学習に影響を与える要素にも注意を払うことができるはずだ。また、学生からも納得できない部分に関して声を上げていくべきではないか。
▼詳しくは「コロナ禍の教育と学生生活③ 大学、教員から見たオンライン授業」
オンライン授業は「多長多短」
教育学を専門とする近田政博教授はオンライン授業について、「一長一短というよりむしろ、多長多短」と話し、メリットとして「コロナ禍のような社会状況でも、まがりなりにも授業として成立すること」を挙げた。一方で、デメリットとして目の疲れや非言語的コミュニケーションの難しさを口にした。コロナ禍での教育に試行錯誤する様子がうかがえた。
▼詳しくは「コロナ禍の教育と学生生活④ 教員も悩み続けたコロナ禍の2年」
過重な課題 「学び」のためではなく「確認」のため?
バリュースクールの鶴田宏樹准教授は、学生から課題が多いという声が多くあがったことに対し、「授業の理解を課題を出すことで測らないといけないような雰囲気はある。学びのための課題というより確認のためではないか」としたうえで、「知識の獲得ができていても、それを使うための考える時間がないということが一番の問題だと思う。ものを考えることが大事なのであって、課題に追われるのはもったいないと思う」と話した。
教員は課題に追われる学生の存在を認識し、課題の量を一度見直す必要がある。ある大学関係者は、「会議で『課題の量を考慮してほしい』という話が出ても、末端の教員まで浸透していない」と漏らしていた。大学側は、この構造を変える必要があるのではないか。
一方、学生側は、問題があると思われる授業については、授業評価アンケートでなどで積極的に意見を出していく必要があるのではないか。
どうなる? 2022年度の授業形態
学生からはハイブリット授業を希望する声が多く寄せられたが、近田教授は「ハイフレックス(ハイブリッド)型は手間がかかる割に、対面授業に来る学生が回を追うごとに減ってしまう。結局学生の反応も確認しにくく、教員のモチベーションも下がってしまう恐れがある」と話していた。2022年度の授業のシラバスからは、対面、オンデマンド、ハイブリッドなど様々な形式の授業が予定されていることがわかる。教育の在り方、学生生活はコロナ禍で大きく変化している。大学も学生もこの2年で明らかになった課題に向き合い、柔軟に対応していく必要がある。
了
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