学生の「発信」問われる自律性③ 表現の自由とのはざまで

 表現の自由と多様な閲覧者に対する配慮を両立させるためには、どのような意識が必要なのだろうか。今回ニュースネット委員会はジェンダー理論を専門とする稲原美苗准教授とメディア文化論を専門とする小笠原博毅教授に話を聞いた。<奥田百合子、佐藤ちひろ>

(写真:神戸大正門前)

この記事は「学生の「発信」問われる自律性② 大学からの指摘」から続きます。

 神戸大では、課外活動団体KooBeeが運営するサイトに掲載していた一部コンテンツが、「ストーカーや盗撮を茶化している」との指摘を受け、削除された。表現の自由と多様な閲覧者に対する配慮を両立させるためには、どのような意識が必要なのだろうか。今回ニュースネット委員会はジェンダー理論を専門とする稲原美苗准教授とメディア文化論を専門とする小笠原博毅教授に話を聞いた。

エンタメと閲覧者への配慮 その線引きは 

 稲原准教授は、エンタメの性的な表現、それをほのめかすような表現はどこまで許されるのかについて「線引きは難しい。言葉は人によって、発信する側と受け取る側によって違う。例えば、生理用ナプキンのCMは、女性にとっては性的ではないが、男性にとっては性的かもしれない。メディアは相手がいることを意識しなから発信する必要がある。他の例を挙げれば、テレビドラマはほとんどが異性愛対象になっている。最近は少しずつ改善されてきていて、ゲイのカップルが主人公のドラマもある」と話す。その一方で、「変わってきていると思いつつ、バラエティー番組での表現はルッキズム(外見至上主義)が酷い。ふくよかな女性芸人が容姿を揶揄されたりしているが、それを太っている人がみたらドキッとするのではないか。日本では容姿を笑いにするが、海外ではありえないこと。細かいことをあげたらきりがないが、意識すべきことは、テレビや新聞などのメディアは不特定多数の人を対象にしているということ」と指摘した。

 小笠原教授は、特に大学生が制作するコンテンツにおいて、「萎縮や自主規制が一番よくないので、好きに作ればいいと思う。ただ、第三者委員会を作り、セカンドオピニオンを聞く機会を設けるという方法はある。しかし、これは第三者の介入を招くことになるので表現の自由が100%保持できているとは言えない。どういう条件で、どういう場所でこの言葉が使われているから良いのか悪いのか、制作者がもっと繊細に事前リサーチすることが必要だが、学生の団体なので、多少の脱線は仕方ないと思う」と話した。また、「線引きは自分で決め、それを明確な基準を設けて示すこと」と述べ、「大学生が、大人に言われたことを踏襲するのはよくないので、若い自由な発想を生かした方がよい。しかし、『これをやりたいからやるんだ』と開き直ってはいけない。何か指摘されたら、意見の対立を恐れずに討議し、考え直し、作り直せばよい」と話した。

(写真:鶴甲第1キャンパスで)

指摘されたから削除は不適切 

 小笠原教授は「僕だけの彼女」について、「閲覧して不快に思う人がいるのであれば、何とかしなければならない」「性被害に関しては、女性が被害者で、男性が加害者になる場合が多く、被害者と加害者の男女比が不均衡であることを加味しなければいけないと思う」とした上で、「大学から『不適切』と言われただけで削除をしたなら、予防線を張ることやキャンセルカルチャー(主にSNS上で、特定の対象の言動などを糾弾すること)につながる。そのコンテンツがよくないかどうかは、人に言われないと分からないかもしれないが、単に指摘されたからという理由で、きちんと考えずに言われるがまま削除することはよくない」。

 また、大学に言われたから削除したということでは、ただの検閲だと話す。「対応の経緯にみんなが納得しているかどうかが重要。そうでないと、不当な権威による検閲を招く可能性がある」。また、「出演者には削除をするという断りを入れたのか、アカウンタビリティ(説明責任)が問われる。制作と公開の責任は、視聴者だけではなく同意して出演している人にも果たされなければならないのではないか。誰にどこまで責任があるのか分からないまま削除するという風潮はよくない。制作者は、うやむやな部分をできるだけ減らす必要がある」と指摘する。

(写真:取材に応じる小笠原教授)

最低限の決まりが必要

 稲原准教授は、「僕だけの彼女」について「ジェンダーを教えている身としては残念。女性を男性や異性愛中心主義の固定観念で捉えている。のぞき部屋(風俗店の一形態で、客はマジックミラー越しに踊り子の女性を鑑賞できる)のように、一部の人にとってはわくわくするものなのかもしれない。どこで線引きすればよいのか、はっきりとは分からない。でも、女性の中にも表現したい人、商品化の対象になりたい人もいるかもしれない。そういう表現が全て駄目なわけではないが、誰かを傷つけるような映像・コンテンツは出さないでほしい」と線引きの難しさを口にした。

 今後の対応については、「神戸大のイメージを背負ってもいるので、メディア倫理(規約)を作った方がいいと思う。また、コンテンツは永遠に残るのか。モデルの人の迷惑になる可能性もある。デジタルタトゥーなどのリスクを考えた方がよいと思う。最低限の決まりなどがないと、学生の間でなあなあになってしまうのではないか。個人の発信ではないことを意識してほしい」と話し、自身が作成に関わった、人間発達科学研究科のソーシャルメディア運用規定についても触れた。

記事「学生の「発信」問われる自律性④ 表現には責任を」に続く。

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