俳句や遺品を通し戦争見つめる 山口誓子特別展 10月17日(金)まで

 日本を代表する俳人・山口誓子(やまぐち・せいし)の作品や遺品を展示する「誓子と戦争」が10月17日(金)まで開催されている。会場には、誓子が戦争について詠んだ句、実際に使用していたゲートルなどが展示され、俳人・誓子の戦時下での創作の背景をたどることができる。<川﨑成真、本田愛喜>

(写真:「誓子と戦争」の展示会場 「神戸大学百年記念館」1階展示ホールで 2025年10月9日撮影)

 山口誓子(やまぐち・せいし、1901年<明治34年>〜 1994年<平成6年>)は、高浜虚子に師事、新興俳句運動の指導的存在となった日本を代表する俳人だ。
 神戸大とは直接の縁はなかったが、妻・波津女(はつじょ)の弟の末永山彦さんが神戸大出身で、新野幸次郎・元学長とゼミの同窓だったことや、誓子に後継ぎがいなかったこともあり、没後、財産、土地、著作権などがすべて神戸大に寄附された。
 百年記念館の隣には、誓子が長らく暮らした旧邸宅の一部がほぼ忠実に再現され、黒い瓦屋根の日本建築、「山口誓子記念館」が2001年1月に完成した。
 館内には寄付された様々な資料が展示されている。

 そんな誓子とゆかりのある神戸大は毎年、百年記念館で山口誓子特別展を行っている。今年は戦後80年の節目ということで「誓子と戦争」がテーマになっている。

(写真:誓子と妻・波津女のゲートル=左=と身元札)

 特別展には誓子が戦争について読んだ句、書いた随筆、名札差や誓子が実際に使用していたゲートル(戦争中の男子の防空服装として着用されていた、脛を保護するために巻く布)などが展示されている。
 誓子は強度の近眼であったうえ、結核を患っていたため、戦争に行くことはなかった。しかし、こうしたゲートルや身元札という当時の身の回りの品から、戦争が誓子の暮らしと密接であったことが感じられる。

 誓子は、戦火想望俳句を作っていた。戦場へ行かずにニュースや新聞、雑誌の記事や写真を見て作った俳句のことを「戦火想望俳句」と呼ぶ。当時、実際に戦争に行ってないものが戦争にさも行ったかのように詠む俳句は批判される面もあったという。
 そのほか、誓子が大演習、観艦式について詠んだ句も展示されている。
 1941年12月8日に太平洋戦争がはじまる。誓子は、「なにものも日本を侵すことができない」という内容を句に含めていたり、シンガポール陥落を素直に喜ぶ句を詠んでいる。
 このほかにも特攻隊について詠んだ句、戦地に赴く義弟を詠んだ句、戦意高揚のプロパガンダとして用いられた句なども展示されている。

(写真:誓子が大演習を詠んだ句「大演習火砲のもとにまどろめる」と、そのモデルとされている絵葉書=右)

 誓子は1937年、『俳句研究』という結社を超えた俳句誌に「戦争と俳句」を書いている。誓子が無季俳句(季語を含めない俳句)を読むことはなかったが、ここでは、季語に字数をとられない、新興無季俳句こそが戦争を詠めるのだという考えを示している。
その後、誓子の戦火想望俳句を手本として無季俳句に挑戦していった俳人もおり、誓子の考えの影響力が見てとれる。

 特別展のコーディネーターの米田恵子さんによると、誓子がこうした戦争俳句を作っていたことは、日本は敗戦した後、戦争について触れない風潮があったこともあり、あまり知られていないという。
 特高による言論弾圧「京大俳句事件」の影響か、好戦的な俳句も読まれ、それらは『激浪』という句集にまとめられるが、終戦翌年の出版の際にはGHQの検閲を怖れて、日常を詠んだ句に差し替えられたという。
 展示では、戦争に翻弄された俳人の一人として、当時の誓子の創作をたどることができる。

 今回はテーマに合わせて戦争俳句を多く集めているが、戦時中の誓子は戦争俳句よりも、身近にいる生き物などを詠んだ句のほうがはるかに多いことも忘れてはいけない、と米田さんは解説する。
 会場には、俳句をたしなむ一般市民の来場者が多い。
 米田さんは、「学生さんにもぜひ、来てほしい。この展示会をきっかけに、俳句に興味を持ち、研究してくれる人が増えたら」と話す。

《山口誓子特別展「誓子と戦争」》
●日時=9月8日(月)~10月17日(金)の平日(ただし10月11日(土)は開館) 10時~16時
●場所=神戸大学六甲第2キャンパス 「神戸大学百年記念館」1階展示ホール
●アクセス=阪急神戸線「六甲」駅、JR「六甲道」駅、阪神本線「御影」駅から市バス36系統「鶴甲団地」行きに乗車、「神大文・理・農学部前」で下車。(阪急「六甲」駅からバスで約10分、JR六甲道駅から同約15分、阪神御影駅から同約25分)[アクセスマップ]
●主催=国立大学法人神戸大学
●問い合わせ=
電話:078-803-5393
メール:ksui-yamaguchi_seishi@office.kobe-u.ac.jp
●公式サイト= https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/event/yamaguchi2025/


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