洋画家として活動しながら、戦後は三和銀行やサントリーの広告制作に携わった山崎隆夫(1905−91年)の特別展が、芦屋市立美術博物館(芦屋市伊勢町)で開催されている。山崎は神戸商業大学商学専門部(現・神戸大)の卒業生。油彩画から、ポスターのアートディレクション、広告のプロデュースなどを手がけたその幅広い活動に、生誕120年のいま、光が当てられている。11月16日(日)まで。月曜休館。ただし、11月3日(月・祝)は開館、4日(火)は休館。<本田愛喜>

(写真:芦屋市立美術博物館には油彩画、ポスター、CMなどが展示、上映されている 2025年10月29日午後撮影)
山崎は1905年に大阪で生まれ、幼少期から神戸・御影で過ごした。神戸高等商業学校入学後から芦屋在住の洋画家・小出楢重に師事し、校内では美術クラブ「青猫社」に所属して絵画制作に取り組んだ。1930年には、神戸商業大 商学専門部(神戸高商から校名変更)を卒業して、三十四銀行(後の三和銀行、現・三菱UFJ銀行)に就職するが、その後も独立美術協会展や文展への出品を重ね、1943年には国画会会員となる。
戦後の1948年には三和銀行の宣伝・PR担当に抜擢され、菅井汲、吉原治良、川西英ら芸術家仲間による絵画やイラストを採用してポスターを制作。アートディレクターとしての手腕を発揮した。
1954年には寿屋(現・サントリーホールディングス株式会社)の宣伝部長に就任し、コピーライター・開高健のほか、アートディレクターの坂根進、写真家の杉木直也らのメンバーを「ほん機嫌よう遊びなはれ」という掛け声で率いて、プロデューサーとしても活躍。高度成長期の広告業界でサントリーを注目の企業に押し上げた。
晩年は神奈川県茅ヶ崎市で、1991年に逝去するまで画家としての活動を続けた。
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順路は、広告クリエイターとしての山崎の原点とも言うべき、神戸商業大 商学専門部の卒業論文の実物展示から始まる。タイトルは『広告絵画の芸術化と表現形式の探究』。
「先駆的な、社会的な、時代的な広告絵画を、現代の新しい芸術理論の第一線に勇躍しうるものとして多大の興味を持っている」と、自筆の万年筆の筆跡を読み取ることができる。

(写真:1930年執筆の卒業論文が実物展示されている)
戦前の油彩画は、落ち着いた色彩が重ねられている。銀行勤務後に帰宅した夜に絵を描いていたため、室内灯のもとで書かれた静物画が中心だ。
防空法のもと、灯火管制が始まった1938年の「花と影の静物」では、花が斜め上からの電灯に照らされ、背後の壁にその影が落ちているのがわかる。

(写真:1938年「花と影の静物」=右)
戦後、三和銀行で広報担当に抜擢され、菅井汲、吉原治良ら芸術家仲間の作品を積極的にポスターに起用した。日本人の暮らしに寄り添う写真やイラストに、<みなさまの金庫><どなたも明るい暮らしを>とコピーを配したポスターからは、山崎がアートディレクターとして頭角を表していった様子が見てとれる。
そのようななかで、黒をバックに、クールな眼差しの女優・高峰秀子を全面に配置して、銀行のロゴのみを加えた大胆な構図のポスターは異色の作品だ。

(写真:「トリスウイスキー」の新聞広告では自らコピーを書いた作品も=右)
サントリーの宣伝部長となった昭和30年代以降は、開高健、柳原良平、山口瞳らの集団を率いるプロデューサーとして活躍。新聞広告やCM、PR誌 『洋酒天国』の発行などで広告業界を牽引した。
新聞広告のコピーや、『洋酒天国』の表紙には山崎の手による作品も登場している。1964年には広告制作会社サン・アドを立ち上げ社長に就任した。

(写真:戦後は抽象画を多く描いた)
1970年の大阪万博でサントリー館の総合プロデューサーをつとめた後、1974年に69歳でサン・アンドの社長を退任。山崎はようやく専業画家となり、1991年に亡くなるまで意欲的に絵画制作を続けた。
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授業で訪れたという大阪成蹊大芸術学部2年生の女子学生二人連れは、「画家としての作品と、広告制作者(アートディレクター)としての作品が全く違うのがおもしろい」「戦後の絵が抽象よりになっていたのが興味深い」と語り合っていました。

(写真:学芸員の川原百合恵さんは神戸大のOG)
この展示を企画した、学芸員の川原百合恵さん(2018年発達卒、2020年人間発達環境学研究科修了)は、「画家と広告制作者という二足のわらじで活動し、行き来することにより双方を深めてきた。2つを両立する仕事のあり方は、現在の私たち(の働き方、生き方)へのメッセージになっている。ぜひ、たくさんの方に見てほしい」と語った。
また、神戸大生には、「山崎の思考の源泉は神戸高商、いまの神戸大にあるといっていい。そうした先輩の仕事はたくさんの示唆を与えてくれるはずです」とメッセージを寄せた。
川原さんらがまとめた図録(2000円)は60ページを超え、山崎の活動を網羅する貴重な記録になっている。
《特別展「山崎隆夫 その行路 ―ある画家/広告制作者の独白」》
●開催期間=9月20日(土)から11月16日(日)(月曜日は休館)
※11月3日(月・祝)は開館、11月4日(火)は休館
●開館時間=10時から17時(入館は16時30分まで)
●観覧料=一般1000円、大学生、高校生700円、中学生以下無料
※11月8日(土)、9日(日)は観覧無料
●開催場所=芦屋市立美術博物館(芦屋市伊勢町12−25、電話0797−38−5432)[地図]https://maps.app.goo.gl/rCAYxoEDLALy5GLM7
●主催=芦屋市立美術博物館
●公式サイト=https://ashiya-museum.jp/exhibition/exhibition_new/20074.html
了
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