【コラム伏流水】教える仕事

 大学生になり、塾講師のアルバイトを始めた。受験勉強で培った経験を生かすことができると思ったからだ。日頃から妹に勉強を教えていたので、勉強を教えることに関しては自信があった。

 アルバイトを始めた直後、自信は簡単に打ち砕かれた。英語を教えていた時。文法問題の正答率が低い生徒がいた。文法を重点的に教えたが、点数は伸びない。ある日単語テストをすると点数が悪かった。文法が苦手なのではなく、本当は単語を知らなかったのだと分かった。毎日顔を合わせる妹だと得意不得意を把握できたが、週に数回しか会わない生徒だとそれを知るのも難しかった。

 今まではずっと教えられる側だった。特に私は高校時代、放課後まで残って質問し、納得がいくまで帰らない生徒だった。先生も手を焼いたに違いない。しかし先生はいつも親身になって教えてくれた。だからこそ「先生は何でも知っている」と思っていた。

 教える側に立って初めて気付いた。先生は何でも知っているわけではないし、むしろ最初は何も知らない。生徒と向き合うことで生徒を理解し、一人一人に合った指導を可能にしていた。塾講師のアルバイトはそのことに気付かせてくれた。先生の苦労を感じた。久しぶりに母校を訪ね、改めて「ありがとうございました」と伝えたいと思った。私も今は何も知らないが、生徒としっかりと向き合い、理解を深めていきたいと思う。

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