【終戦80年】空襲下キャンパスで失われた命＜４＞　洋上の練習船にロケット弾６人が爆死

　８０年前に終戦を迎えた太平洋戦争。戦争末期には神戸高等商船学校の生徒らが乗り組んだ実習中の船上でも尊い命が失われた。反撃の手段を持たない練習船が、播磨灘で米軍の機銃弾やロケット弾にさらされて６名が亡くなった。神戸大学大学文書史料室の資料をもとに、その記録をたどる。＜編集部＞

●１９４５年７月２４日昼
播磨灘で航海実習中の練習船「進徳丸」が米艦載機５機による攻撃、神戸高等商船学校機関科生徒２名を含む計６名が爆死

　４月２８日から瀬戸内海を航海訓練中だった進徳丸が、７月２４日、播磨灘北岸に停泊中、米軍機に襲撃され、６名が命を落とした。
　進徳丸には高等商船学校航海科１期生１３７名、神戸高等商船学校機関科４５期生１３名、東京高等商船学校機関科１１７期生１２名、合計１６２名の実習生が乗り組んでいた。
　この日の出来事は、『練習船進徳丸史』（１９８９年６月１０日進徳丸史編集委員会・編　海文堂出版発行）に克明に記録されている。

（写真：米軍機に攻撃され、擱座、炎上後の進徳丸『練習船進徳丸の記録』＜航海訓練所、１９６２年９月３０日発行＞から）

　７月２４日早朝よりの空襲警報の発令で進徳丸は警戒部署についていたところ、米艦載機１編隊が接近した。この艦載機は播磨灘北岸に停泊中の船影を発見するや、反転して攻撃態勢をとった。進徳丸の右舷方向から旋回してきたポート・シコルスキー６機は陸岸の山肌を背にエンジンに出力を絞ったかのように爆音を消し、超低空で機銃掃射しつつ両翼に２基ずつ抱いていたロケット弾のうち両端２基、旋回後内側２基を発射した。発射された瞬間、ダーン、シャーという音とともに白煙をひきながら進徳丸に突進してきた。
　時に７月２４日１２時１５分、進徳丸は多数の機銃弾とともにロケット弾３発を受け、船体は鳴動し、爆煙は船内にみなぎり、内火艇ならびに船橋下に小火災が発生、そして進徳丸は徐々に右舷に傾きはじめた。
　最初に命中したロケット弾１発は、２番倉右舷の吃水線外板を貫通し、バゲジ・ルーム内で爆発したため、退避中の実習生１０数名が重軽傷を負い、応急手当てを加えたにもかかわらず、神戸高等商船学校機関科４５期生、石崎洋一、松永光伸、東京高等商船学校機関科１１７期生、安達庄三、杉山松夫の４氏と、船体を貫通した機銃弾により実習生教室に避難中の高等商船学校航海科１期生、大高卓氏、ならびに船首楼甲板に命中したロケット弾が甲板２層を貫通、爆発して、機関員田付敏男氏が死亡、犠牲者は６名、重傷者６名、そのほか、軽傷者多数の人的被害のほか、船内各所が破壊され、救命艇は殆どが使用不能となった。

　このあと、進徳丸は沈没を避けて明石市二見港沖に擱座（編集部注：浅瀬に乗り上げること）したが、執拗に米軍機の攻撃を受けた。

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　戦時下の進徳丸は、内海のごく限られた海面の航行に行動を制約されることになり、やがて帆装を撤去されて汽船として若松から尼崎間の石炭輸送に従事することを余儀なくされていたという。

　二見港灯標の方位２１４度、距離４２０メートルの二見港に任意擱座していた進徳丸だったが、その戦後の歩みも『神戸商船大学５０周年記念誌』（１９７１年９月２０日発行）に記録されている。

　終戦後、１９４６年（昭和２１年）８月に神戸の三菱造船所の手で進徳丸は引き上げられたのち、神戸に曳航され、同所の和田岬岸壁に係留して大修理が加えられた。
　さらに、１９５６年（昭和３１年）にも大改修工事が行われたが、老朽化のため、船舶検査官から国際航海の禁止が通達された。
　１９６３年（昭和３８年）３月３１日には船舶国籍証書と船舶検査証書を返納し、大正１３年に就航した初代進徳丸は廃船となった。
　しかし、スクラップにするのは惜しいと、永久保存の声が上がり、紆余曲折を経て深江の神戸商船大ポンド横に保存され、青少年の訓練センターの役割を果たすことになった。
　平成に入って、老朽化が進んだため保存整備計画が実行されようとしていた１９９５年、１月１７日の阪神・淡路大震災で設置地盤が崩壊し、船体は解体撤去されることになった。
　震災後は、記念展示施設「進徳丸メモリアル」が深江キャンパス南東に建設され、その外観はありし日の進徳丸の姿を模している。