左手が奏でる追悼曲 震災犠牲者へ 

左手だけで演奏するピアニスト智内威雄(ちないたけお)さんの震災犠牲者追悼メモリアルコンサートが1月14日、甲東教会で開かれた。震災で亡くなった加藤貴光(かとうたかみつ)さん(当時=神戸大・2年)の母律子さんが以前から智内さんと交流があり、震災を通じて知り合った人たちに呼びかけ今回のコンサートが実現した。【1月14日 神戸大NEWS NET=UNN】


 智内さんは01年にジストニアに冒され、ピアニストとしての右手指の機能を失うものの、04年から左手のみの演奏で音楽活動を再開した若手のピアニスト。
 会場となった教会には、席の後ろに立ち見が出るほど大勢の人が集まった。コンサートは、男声合唱団の宝塚ゾリステンの歌声から始まった。その後、律子さんの挨拶の中で貴光さんについて語られた。貴光さんは湾岸戦争を見て国際情勢に興味を持ち、国際平和に貢献したいと考えていた。高校では日本文化を知るため剣道部に入り、生徒会にも所属して校則の一部改正も成し遂げたという。「貴光は一生懸命生きた。肉体は葬っても、魂までも葬ってはだめ」と訴え、集まった人の中には涙する姿も見られた。
 また貴光さんが生前、律子さんに渡した手紙を、貴光さんの友人の村上友章さんが朗読した。手紙には、母を思う息子の温かい気持ちがしっかりと刻み込まれていた。
 そして落ち着いた雰囲気の会場に、智内さんの情熱的なピアノ演奏が響き渡った。左手だけでの演奏にも関わらずとても力強く、生命力にみなぎっていた。「律子さんに出会ってエネルギーをもらった。今回は恩返しというか挑戦です」。アンコールの曲の途中、教会の窓から太陽の光が差し込み、幻想的な雰囲気の中で、犠牲者を偲んだ。

 Photo? 律子さんが彼と知り合ったのは昨年の3月、智内さんが広島交響楽団と協演する際に、新聞記者から紹介してもらったのがきっかけ。「ものしぐさ、雰囲気が貴光に似ていて他人が弾いているとは思えないんです。息子が戻ってきたみたいで」。最近では、お互いを「たけ」「かとママ」と呼ぶようになり、本当の親子のような関係になっている。
 震災以来、律子さんは他人の気持ちに合わせて元気に振舞う日々が続き、いつも家に帰ると涙も出ないほど、疲れきっていた。そんな律 子さんの心を癒してくれたのは音楽だった。夜中涙を流しながら聞いた。ただ、音楽の何がそれほど心に響くのかわからなかったという。 そんな律子さんに「気持ちは言葉にすると微妙にずれてしまう。でも音楽は、言葉にする前の感情を表すことができます」と智内さんは説明する。律子さんの家で、二人で音楽についての夜中まで話したこともあった。
 加藤さんの追悼コンサートが開催されると聞いて全国から関係者が駆けつけた。この12年間、数多くの人と出会い、そのひとつひとつを大切にしてきたという。「人のつながりがどんどん、広がって、今日一堂に会したことで改めて12年という時間を感じました」と感動しつつ、「まだ新人の智内威雄を応援していきたい」と「親心」を見せていた。


《訂正》本文中「加藤貴光(かとうかたみつ)さん」とあったのは「加藤貴光(かとうたかみつ)さん」の誤りです。おわびして訂正します。(編集部 2007年1月16日午前2時50分入力)

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