昨年は炎上、今年はトラブル 六甲祭コンテスト開催の意義どこに

 六甲祭のコンテスト、THE Campus KOBEでエントリーNo.3の五十嵐萌音さんと運営の間でトラブルが発生した。運営側が謝罪する形でコンテストが続行されることになったが、一連の動きを振り返ると、ルールの不備や運営側の不誠実な対応といった様々な問題が見えてきた。今年も、六甲祭実行委の危機管理力が問われる事態となった。<佐藤ちひろ>

 ルールの不備が浮き彫りに

 まず問題として挙げられるのは、ルールの不備だ。今回THE Campus KOBEでは、出場者のインフルエンサーとしての能力を測る基準としてSNS(Twitter、Instagram、TikTok)のフォロワー数の多さを競うことになっていた。
確かにフォロワー数はその人の影響力を示すひとつの指標となり得るが、運営側が自ら説明しているように、不正が起こりやすく、またそれを防ぐことは難しい。

 SNSの世界では、アカウントの売買行為があると指摘されている。アカウントを、金銭などで融通する会社があるという。
運営側は、出場者が自身でこうした不正行為を行なってフォロワーを増えたように見せかける行為を禁止していた。ところが、例えば熱狂的なファンが、ある出場者を勝たせるために勝手にフォロワーのアカウントを購入し、提供する可能性は排除できない。また、反対に、ある出場者のファンが対立候補を陥れる目的で、対立候補に不正なフォロワーを提供することも可能だ。
 今回運営側は、このような事態を想定しておらず、出場者である五十嵐さんのフォロワーに疑念が生じた際に、五十嵐さんが自分を利するための不正だったのか、第3者による不正だったのかを吟味せずに、一方的に五十嵐さんにペナルティーを与えたことがトラブルの発端となった。

 いずれにせよ、各フォロワーが適正なフォロワーかということを厳密に判断することは容易ではないため、フォロワー数を審査基準にすること自体に課題があったといえるのではないだろうか。

 繰り返された運営側の不誠実な対応

 今回の最大の問題は、フォロワーの不正購入はしていないと主張する五十嵐さんに対する運営側の対応だった。

 疑念が生じたときに、運営は出場者の五十嵐さんと、きちんと話し合いの場を持ったのか。経緯の説明を読むと、運営側が五十嵐さんの主張に耳を傾けることなく判断を下したことが浮き彫りになってくる。
 運営や五十嵐さんが発表した文書によると、運営側は五十嵐さんの立場や気持ちを無視した言い方をしたり、一度決まった話し合いの予定を断るなどの対応を繰り返したりしていたという。
 出場者と運営側では、どうしても運営側の立場が強くなりがちだ。何かトラブルが起こった場合、出場者が強く声を上げなければ運営の主張に沿った展開になってしまう。
実際、今回運営はルールの不備などを詳細に分析することなくことを無理矢理進めたように見える。

 幹部が独断可能な組織構造

 双方の発表によると、当初、五十嵐さんへのペナルティー(Twitter、Instagram、TikTokアカウントの作り直し)を決定したのはTHE Campus KOBEの統括、副統括を含めた3年生5人であることが分かる。
 この決定はこの5人だけの判断で、コンテスト運営側の総意ではなかった。

 また、五十嵐さんによると、運営側が謝罪文を出す際のやり取りで、「処罰を主に決定した5名の方が制作したものはあまりに挑戦的であったため、その他の3回生の方が代筆したものであるというという報告を受ける」という記載がある。さらに、「(謝罪後の)対応も、到底誠実なものではなかった」と、8月24日のTwitter再開時に、五十嵐さんは不信感が拭えないことを綴っている。

 トラブルが生じた際にどのように解決するか。六甲祭実行委員会の組織の問題として捉える必要があるのではないか。
 実際の謝罪文や説明文には統括、副統括等の署名はない。五十嵐さんは名前と顔をさらしているにもかかわらず、運営側の対応の誠実さに疑問が残る。

 誰のためのコンテストなのか

 一般的なミス・ミスターコンの仕組みとして、出場者はキャリアアップの機会を得ることができ、運営側もマネジメントの実績やそこで得たつながりを自身の就職活動などで生かすことができるという見方がある。また、ミス・ミスターコンに協賛する企業は、出場者に自社の商品をアピールしてもらうことで、利益につなげることができる。

 五十嵐さんがフォロワーの購入は行っていないと主張したとき、それを取り合わなかったことを、運営側は自ら謝罪文で「保身」と表現しているが、何のための保身だったのか。

 出場者の心理的負担をどうするか

 一連のトラブルが表面化して以来、Twitterを見る限り、五十嵐さんへの表立ったネガティブなメッセージは広がらなかった。しかし、五十嵐さんは「本当にごく少数ですが、活動休止中に私への否定的な意見も見られたため恐怖感があり、すぐには以前のように積極的に発信していくことは難しいのですが、少しずつ活動していこうと考えております」と8月24日、ツイッターに綴っている。
 「棄権したい」、「弁護士を通してしかお話できなくなる」とまで毅然とした態度で主張した五十嵐さんの精神的な負担がはかり知れないものであったことは想像に難くない。
便利なSNSだが、今回のようにイベントのルールなどに組み込む際はそのリスクや危険性を十分に考慮する必要がある。

 今年も問われた六甲祭実行委の危機管理力

 なにより今回問われたのは、六甲祭実行委員会全体のガバナンス力と、リスクマネジメント能力だ。
 実行委の1つの部門とはいえ、THE Campus KOBEの運営でのトラブルを、実行委としてどう捉えているかは見えてこない。
 今年も対面開催を見送るとした、8月24日のTwitterでの発表の中で「THE Campus KOBEが現在企画進行を中断しております」と触れているのみだ。

 思い起こされるのは、去年の六甲祭の炎上問題。
 実行委が対面開催を見送るとした際に、「ミスコン、ミスターコンのみオンライン開催する」と発表し、ルッキズムやジェンダーの観点から人々の批判がツイッター上で集中した。
 学術シンポジウムや、演奏などのパフォーマンス企画をオンラインで開催した大学が多かった中で、ミスコン、ミスターコンのみを開催すると発表したなら、社会からどう見られるかの想像力が実行委には欠如していた、と言わざるを得ない。
 
 2年連続のオンライン開催となった今年の六甲祭では、ミスコン・ミスターコンではなく男女混合のコンテストにしたことや、学術企画やパフォーマンス企画を募集していることなど、変更点は見られる。
 しかし、トラブルが表面化する前に、当事者間でしっかりコミュニケーションがはかられているのか。すみやかに謝罪し、改善する組織になっているのか。実行委の中の危機管理能力が改善されているのかは、疑問だ。

 学外から多くの人を招く学園祭=六甲祭はどうあるべきか?
藤澤学長が就任メッセージで目指すとした、大学の目標である「『知』の創造と社会に貢献できる『人材』育成」に、合致したイベントなのか?
 神大生の「知」と「社会性」が問われる問題が、今年も露呈してしまったのは残念というしかない。

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