竸基弘賞授賞式 2年連続のオンライン開催

 特定非営利活動法人国際レスキューシステム研究機構(神戸市長田区)は、1月14日、第17回竸基弘賞授賞式を2年連続、オンライン形式で開催した。竸基弘賞は、阪神・淡路大震災で亡くなった神戸大の大学院生にちなんで設けられ、レスキュー工学を担う若手研究者や技術者を奨励するもの。学術業績賞には京都大学防災研究所の廣井慧准教授が、技術業績賞には一般財団法人電力中央研究所の加川敏規さんが選出された。<塚本光・佐藤ちひろ>

竸基弘賞は、阪神・淡路大震災で亡くなった、当時神戸大自然科学研究科博士前期課程1年の竸基弘(きそい・もとひろ)さんにちなんで設けられた。
 震災から10年が経った2005年から始まり、今年で17回目。


(画像:第17回竸基弘賞授賞式の様子)

開式の挨拶で、国際レスキューシステム研究機構の田所諭会長は、「科学技術、先端技術がレスキューに貢献できるのではないか」「近年、世界的にロボットをレスキューに使う流れが出てきた」「受賞者の研究が将来活用されることを願う」とレスキュー工学界の将来への希望を述べた。

学術業績賞は、京都大学防災研究所の廣井慧准教授が、「防災ICTの高度化に向けた減災オープンプラットフォームARIAの研究開発」で受賞した。
廣井准教授は、複数の防災要素技術や、システムを漸進的にデータ交換・同期し協調実装する連携基盤を開発した。この技術を用いることにより、既に開発・運用されている既存システムを自由に接続し、その機能を柔軟に入れ替えできるようになり、既存システムをベースとした拡張や、処理に合わせた柔軟なマシンリソースの分配が可能となった.元来、災害情報を扱うシミュレータやシステムなどは、開発や導入・機能追加・更改に多大なコストが必要であったが、このような技術を開発し、研究者・技術者・運用者に提供することで、防災システム・アプリケーションの開発・導入のコストを削減防災ICTの高度化の促進に貢献している。

学術業績賞と、技術業績賞の受賞者には、トロフィーが送られた。

その他に、IEEE IROS Best paper award SSRR in Memory of Motohiro Kisoiは、熊本大学の公文誠教授、田嶋脩一さん、早稲田大学招聘研究員の奥乃博京都大学名誉教授が、ロボカップジュニア IRS 賞は和歌山県立向陽高等学校の藤田侑哉、 井上穂大、 中村凌さんがレスキューロボットコンテスト奨励賞は徳島大学ロボコンプロジェクトが、レスキュー工学奨励賞は、電気通信大学の高梨拓朗さんがそれぞれ受賞した。

表彰式で、受賞者はそれぞれの研究についての発表と、受賞に対する感謝の言葉を述べた。


(画像:表彰式での発表の様子)

震災当時は竸さんの所属する研究室の助教授だった競基弘賞選考委員会の松野文俊委員長は、閉会の挨拶で、竸さんとの思い出と、竸基弘賞の設立の経緯を述べた。以下が、その経緯と思い出。

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 競君が所属していたシステム工学科では、毎年センター試験で大学に入れなくなる日にみんなでスキーに行くのが恒例だった。そして、スキーの翌日に地震が起きた。
 私(松野委員長)は大阪に住んでいて、朝地震で目が覚めたが、その後再び眠りについた。起床後、テレビで流れた映像を見て驚き、「神戸が大変なことになっている」と気づいた。そして、今日は出勤できないかなと思った。しかし、神戸に電話をかけてもつながらないなど、次第に、とんでもないことになっていると認識した。しかし、その日は身動きできず、地震の翌日、阪急が再開したので、十三(地震の影響は特になし)から西宮北口まで阪急で行き、西宮北口から神大まで徒歩で向かった。十三から神戸に近づくにつれ、道が陥没していたり、橋が落ちていたりするのを目にし、(神戸に近づくにつれ)だんだん大変な状況になっていくのを感じた。また、神戸大まで歩く過程で、(松野先生とは逆方向に歩いている)沢山の大阪に向かって避難する被災者を見た。また、神戸大への道すがら神戸大の学生を含め多くの知り合いにあい、情報交換をした。その中で、ある学生が競君に関して、「競さんの家は潰れたけれど、競さんは無事で、競さんは今ほかの学生の安否確認をしている」といっていた。そのため、競君は無事だったのだと思っていた。しかし、大阪の自宅に帰宅後、競君が亡くなったという電話があった。「そんなはずはない」と主張したが、「ご両親が遺体を確認した」という話を聞き、本当になくなってしまったのだと認識した。そのあと電話で何をしゃべったのかは全く覚えていない。その後競君の葬式があった。三宮で競君の死亡診断書を受け取り、両親が住む名古屋に運んだりした。その後は、入試や卒業の作業等(教員としての仕事で)忙しかった。春になって、競君が住んでいたアパートが取り壊されるということで、遺品を回収したりした。アパートが取り壊され、更地になったのを見て、「自分は何をやっているのだろうか」という気持ちになった。
 競君はドラえもんのような人を助けるロボットが作りたいと言っていた。笑顔がとても似合う学生だった。

―――――――――――

 また、松野委員長は、式終了後、記者の質問に対して、「競君はアパートが倒壊して亡くなってしまった。学生みんなに未来はあるけれど、明日何が起こるか分からない。今日を最大限頑張って生きてもらいたい。今日は一日頑張ったと思えるような生き方をしてほしい。学生には夢を持って生きてもらいたい。実現できるかは分からないけれど、努力をしてほしい。夢は大きくても小さくてもいいので、一歩一歩進んで充実した日々を送ってほしい。」と、学生に向けてメッセージを送った。

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