壷井達也さんインタビュー① フィギュアスケートで世界のトップへ

 神戸大で勉学に励みながら、フィギュアスケートで一流への道を突き進む人がいる。国際人間科学部発達コミュニティ学科2年生の壷井達也さんだ。2022年4月の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得し、同月に日本スケート連盟の今年度特別強化選手に指定。今秋の2022-2023シーズンからはシニア級に昇格し、いよいよ世界のトップへ挑む。ニュースネットは、普段の練習での努力や神戸大での生活など、壷井さんの素顔にせまった。<本多真幸、出口華、笠本菜々美、塚本光>

(写真:インタビューに応じてくれた壷井さん。神戸大鶴甲第2キャンパスで。2022年6月28日撮影。)

小学生で苦労も、中学生から驚異的な伸び

 出身は愛知県岡崎市で、スケートを始めたのは3歳のころ。先に習い始めた姉の影響で、リンクに行く機会が増え、その流れで自分もスケート教室に入った。トップレベルの選手達は、小学生のうちにダブルアクセル(二回転半)を跳べるようになるというが、壷井さんが習得できたのは中学1年になってからだった。

 しかし、そこからの成長は速かった。3回転ジャンプ全5種類の習得には、他の人だと1、2年かかる場合が多い中で、壷井さんは約4か月で習得。「きっかけを1つ掴めたことが、成長できたポイントだと思います」。全日本中学校大会に2回出場し、中3のときに優勝した。

怪我での挫折を機に、スポーツ科学に興味

 高校は、安藤美姫さんや浅田真央さん、宇野昌磨さんらを輩出した、中京大中京高校に進学。スポーツクラスに入ることもできたが、理系に興味があったので、一般生徒と同じ進学のクラスを選んだ。

 高校1年生の冬には全日本ジュニア選手権で優勝した。しかし、2年生の夏に足首を捻挫。その年の全日本選手権の直前練習でも怪我をして棄権するなど、試合に出られない時期が続いた。「怪我が立て続けに起こって、将来のことを考え始めました。ちょうどそのときスポーツ科学という分野に興味があったので、『怪我の予防など、怪我で苦しんできたからこそできるような勉強をしてみたい。スポーツ科学が学べる大学に進みたい。』と思うようになりました」

自ら選んだ神戸大で、新たな生活

 11月の全日本ジュニア選手権を区切りとして完全にスケートリンクから離れ、勉強にシフトした。共通テストでは5教科7科目を受験。テストの結果を見つつ、スポーツ科学を学べる国立大学で、また、近くにスケートリンクがあり練習環境を保てることから、神戸大国際人間科学部の発達コミュニティ学科を受験し、見事合格した。

 受験後、久しぶりにリンクで滑った時には、感覚がほとんどなくなっており、ジャンプを跳ぶのも怖かった。しかし、「何もない状態からのスタートだったので、身についていた変な癖や、体の動かし方を一から見直すことができたという部分ではよかったです」

 大学生になり、拠点を愛知県から兵庫県へと移した。スケートリンクは、時期ごとに尼崎、西宮、神戸のリンクを併用。北京五輪銅メダルや世界選手権金メダルの坂本花織さん(神院大、シスメックス)や、四大陸選手権で2度の優勝を果たした三原舞依さん(甲南大大学院、シスメックス)を指導する、中野園子コーチの下で練習に励む。練習は朝、夕方、週末で、週6日行われる。朝練のある日は、5時ぐらいに起きて練習場所に向かい、終わった後に授業がある日はそのまま大学に行く。

通し練習、積極的なジャンプ練習で体力つける

 中野コーチの指導の特徴は、練習量だ。プログラムを最初から最後まで行う通し練習を、何回も繰り返す。通し練習を通じて身体に無意識レベルまで動きを染みつかせることで、本番でも緊張せず動けるようになる。「それまで、曲をかけてジャンプとスピンを全部入れての通し練習というのをあまりしてこなかったので、中野チームに入ってから練習量がすごく増えて、体力的に結構きついですね。ただ、無意識レベルにまで動きを落とし込めているという実感はあります」

 また、ジャンプはスケートで一番体力を使う技だが、早朝の練習でも「ガンガン跳ぶ」。体が動きにくい朝にジャンプが跳べれば、体が動きやすくなる夜はもっと楽に跳べるようになるという。

 中野コーチの指導で意識の面にも変化があった。「練習に緊張感があります。体の状態が日々変わる中で、今日は本当にできないって言い訳をしたくなる日が何回かあるんですけど、先生の前ではなるべくしないようにします。しんどい状態でも練習をやる。それが中野先生の考えかなと」

(写真:練習中の壷井達也選手。2022年7月に関空アイスアリーナで行われた、日本スケート連盟の強化練習で。本人提供。)

様々な仲間から受ける刺激

 神戸を拠点として練習を行っている選手たちは「神戸組」と呼ばれている。先述したように、坂本さんが世界選手権で優勝、三原さんが四大陸選手権で2度目の優勝と、「神戸組」の活躍は目覚ましい。壷井さんは、世界のトップで戦っている仲間から、練習に取り組む姿勢や技術など、多くのことを学ぶ。

 神戸大の体育会スケート部にも所属しており、大学生の大会に出場することもある。部には初心者も多く、基本的に指導する側に回る。「自分が自然と身につけて、あまり考えてやってこなかったことを質問されたりするので、いつも無意識にやっていることへの理解が深まるなど、新たな発見が得られることが多いです」。

 また、在籍する学科には、他のスポーツで様々な経歴を持つ学生がおり、そういった学友からも刺激を受けている。「スケートにはない練習方法や考え方を得ています」。

世界ジュニア選手権 堂々の3位に

 競技では、4月にエストニアで行われた世界ジュニア選手権に臨んだ。元は3月に開催予定だったところ、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期になったが、それが助かった。というのも、1月にドイツで行われた大会から帰国した際、ホテルでの隔離期間で筋肉が落ち、2月からかなり調子を落としていたからだ。

 延期のおかげで調子を戻すための充実した練習ができ、本番当日も、世界ジュニアはうまくいくという自信を持てた。そのフリーの演技では難しい4回転サルコウなどのジャンプを入れたが、大きなミスなく決め、堂々の3位。しかし、4回転は「まだいつでも跳べるところまではこれていない」という。

今秋いよいよシニアへ 「世界の選手に食らいつく」

 怪我で、国際試合での結果をなかなか残せず、ジュニア期間が長くなってしまったが、世界ジュニア選手権3位という成績を引っ提げて、いよいよ今秋からシニアに挑む。流れるスケーティングからジャンプした勢いを、降りた後もキープするという強みを生かしたい。

 目標としては、昨年9位だった全日本選手権での6位以内を掲げる。「シニアに上がって、海外の選手と一緒に出ることが多くなってきますが、それに少しでも食らいついていけるように頑張りたいと思います」

(写真:シニアに向けての抱負を掲げる壷井達也さん。鶴甲第2キャンパスで。2022年6月28日撮影)

 秋から始まるグランプリシリーズでは、イギリスで開催のMKジョンウィルソン杯(11月11日(金)~13日(日)と、フィンランドで開催のグランプリエスポー(11月25日(金)~11月27日(日))に出場予定。初めてのシニアの舞台でどんな結果を残すか。

次の記事では、海外遠征の苦労や楽しみ、神戸大での生活など、壷井選手の様々な姿をQ&A形式で紹介する。

▼次の記事=壷井達也さんインタビュー② こぼれ話「野菜炒めにこだわり」 | 神戸大学NEWSNET委員会 (kobe-u-newsnet.com)

壷井達也(つぼい・たつや)
 2002年生まれ。愛知県、中京大中京高校出身。2021年4月、神戸大学国際人間科学部発達コミュニティ学科に入学し、現在2年生。2022年4月の世界ジュニア選手権で3位。同月に日本スケート連盟の今年度特別強化選手に指定され、6月にはシスメックスへの所属を発表。2022-2023シーズンからシニア級デビューする。

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