生きてこそ~1.17を忘れない 震災28年上野さん講演

 神戸大学生震災救援隊、被災地に学ぶ会が主催する阪神・淡路大震災28周年記念講演会が、1月16日、こうべまちづくり会館(神戸市中央区)で行われた。講演はハイブリッド形式で開催され、15人近くがオンラインで参加した。震災で上野志乃さん(当時神戸大発達科学部2年生)を亡くした上野政志さん(75)が講演を行った。上野さんは命の大切さや遺族としての思い、そして震災の経験から学び続けることの大切さを語った。<奥田百合子、笠本菜々美>

(写真:講演する上野さん。2023年1月16日午後、神戸市中央区のこうべまちづくり会館で。)

 阪神・淡路大震災28周年記念講演会 次世代へのメッセージ『生きてこそ~1.17を忘れない』が1月16日にハイブリッド形式で開催された。上野さんは、阪神・淡路大震災で当時発達科学部2年生だった娘の志乃さんを亡くしている。テーマとして「生きてこそ」を掲げ、志乃さんのエピソードや災害の話、これまで上野さんが取り組んできたボランティアの話が紹介された。上野さんは、「自分の生命は多くの人の支えの上にある。志乃がどのように生きていたかを知ってほしい。また、生きることはどんなにすばらしいことか、わかってほしい」と語った。

 志乃さんは家族を大切にする気持ちが強く、大人しくて無口だが、自然に友人が集まってくる子だったという。また、大学時代は喫茶店と居酒屋でアルバイトを掛け持ちしていたが、父の政志さんとしては仕送りをもっと増やせばよかったと悔いが残るという話など、幼少期から大学生になるに至るまで、さまざまなエピソードの紹介があった。

 1995年1月17日、志乃さんは朝の5時まで自宅で友人と「10年後の3人の住居」を考える課題に取り組んでいた。18日の早朝に政志さんは瓦礫の中に友人の頭を発見し、がれきをかきわけると志乃さんの足が見えたという。しかし娘が目の前にいるのになかなかアパートの梁が動かせず、「人間はなにもできない」と辛い思いをした。当時を振り返って、「触った娘の足が氷よりも冷たかった。」と話した。遺体は警察のワゴン車で王子スポーツセンターの武道場まで運ばれたが、医者が一人しかおらず、検視までには時間がかかった。政志さんは「志乃自身はもう話すことはできない。講演をするのも、志乃がこの世に生きていたことを知ってほしいという気持ちがある」と語った。

(写真:講演を聞く来場者。)

 上野さんは東日本大震災や九州豪雨などに際し、「現場に行き、状況を自分で確認し話を聞いて自分のできることをしたい」とさまざまな災害ボランティアに取り組んできた。現在は、タイ北部のチェンマイで日本語ボランティアに励んでいる。年末年始もタイで過ごし、1月10日に帰省したばかり。タイでは日本の文化・伝統に興味をもつ人が多く、日本語を学ぶ学生が多いという。

 現役の大学生に向けて、上野さんは「自分に正直であってほしい。好奇心を失うと広がりのない人間になってしまうから、何事にも情熱をもって挑戦して。」と激励の言葉を送った。

 震災救援隊の西畑克俊さん(工・2)は、「命は自分の思っているより何倍も重い。この前友人のお母さんのお葬式に参列したが、友人にどのような言葉をかけたら良いのか分からなかった。しかし、上野さんの講演を聞いたおかげで、少し接し方が分かった気がします」と話した。

(写真:震災救援隊の西畑さんが上野さんに講演の感想を伝える)

 また、志乃さんと同い年であるという被災地に学ぶ会の藤室玲治さんは、「上野政志さんとは、2009年の佐用町の水害で出会った。志乃さんのことを伝える機会が途切れないようにしたいという思いがある。自分が志乃さんと同い年であるということも大きく、若い学生に阪神・淡路大震災のことを伝えたいという思いで活動している」と語った。

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