競基弘賞授賞式 3年ぶりに対面での表彰

 NPO法人国際レスキューシステム研究機構(神戸市長田区)は、1月16日、第18回竸基弘賞授賞式を対面とオンラインのハイブリッド形式で開催した。対面での表彰は2020年以来3年振り。竸基弘賞は、阪神・淡路大震災で亡くなった神戸大の大学院生にちなんで設けられ、レスキュー工学を担う若手研究者や技術者を奨励するもの。今年度は、新型コロナウイルスも災害であると捉え、感染症やメンタルケアの専門家を対象に、医学部門と心理学部門業績賞の表彰も行われた。<笠本菜々美>

 竸基弘賞は、阪神・淡路大震災で亡くなった、当時神戸大自然科学研究科博士前期課程1年の竸基弘(きそい・もとひろ)さんにちなんで設けられた。

 震災から10年が経った2005年から始まり、今年で18回目。会場は、神戸市長田区の兵庫県立神戸生活創造センターの展示ギャラリーで、オンライン(Zoom)でも配信された。ここ2年間は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインでの表彰式が行われていたが、3年ぶりに対面で行われた。

 表彰式や受賞者の研究内容の発表の後には、震災当時競さんの所属する研究室の助教授だった松野文俊さんが、震災発生から今に至るまでの経緯を語った。

(画像:第18回竸基弘賞授賞式の様子。)

 震災当時は竸さんの所属する研究室の助教授だった競基弘賞選考委員会の松野文俊委員長(現在京大工学研究科教授)は、閉会の挨拶で、竸さんとの思い出と、竸基弘賞の設立の経緯を述べた。以下が、その経緯と思い出。
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 競君は優秀な学生で、「一緒に人と喜んで笑って、心を癒すドラえもんのようなロボットを作りたい」と話していた。彼の周りにはよく人が集まっており、青春を謳歌している様子だった。
 競君が所属していたシステム工学科の研究室では、毎年共通一次テスト(今でいう共通テスト)期間にスキーに行くのが恒例だった。地震が起きたのはスキーの翌日だった。
 私(松野委員長)は大阪に住んでいて、朝地震で目が覚めた。身の回りのものが倒れないように調整し、その後再び眠りについた。起床後、しばらくはテレビをつけても情報がなかったが、時間が経って電車が動いていないと知り、今日は出勤できないのではと思った。神戸に電話をかけても全く通じず、知人や同僚の状況がわからないので心配になった。しかし、その日は身動きできずに終わった。
 地震の翌日、阪急電車が西宮北口駅まで動くようになった。神戸大に行こうと思い、大阪の十三駅から西宮北口駅まで電車で行った。大阪はすでに普通の生活が戻っていて、何事もなかったようだった。しかし尼崎あたりから様子が変わり、道路が陥没しているのを見た。西宮北口駅で電車を降りると、線路のレールが曲がっているなど、酷い状況だった。ときには線路の上を歩いたりしながら、なんとか六甲まで歩いた。
 神戸大まで歩く途中、着の身着のままで大阪に向かって避難する多くの被災者を見た。神戸大の学生を含め多くの知り合いにあい、学生の安否を確認した。その中で、ある学生が競君について、「競君は大丈夫です。彼はがれきの中から這い出してきて、隣のおばあさんを助けて病院に送り届けたそうです。今は、彼にはバイクがないのでほかの学生の安否確認をしているのではないでしょうか」といっていた。そのため、競君は無事だったのだと思っていた。しかし、数日後、自宅に不思議なことを言う電話がかかってきた。「競君が亡くなった」という。私は「そんなはずはない。彼は大丈夫。生きている」と主張したが、「ご両親が遺体を確認した」という電話口の向こうで絞り出すような声を聞き、本当に亡くなってしまったのだと認識した。
 その後競君の葬式があった。学生にバイクで送り届けてもらい、三宮で競君の死亡診断書を受け取り、彼のご両親が住む名古屋に運んだ。お葬式の日は雨で、非常に寒かった。たくさんの学友や知人が来ていた。競君のお顔を拝見すると、やわらかい顔をしていた。彼の死を受け入れざるを得なかった。
 神戸大も避難所になり、入試シーズンや卒論などの仕事で今のことをやるのにしばらくは精いっぱいだった。それらが終わり、少し暖かくなって、競君が住んでいたアパートが取り壊されるということで、遺品を回収しに行くと、彼の歌声が録音されたテープなどが見つかった。数日たつと彼の住んでいたアパートが取り壊され、更地になったのを見た。そのころから「自分は何をやっているのだろうか。何かできることはないか」という気持ちになった。

 競君はドラえもんのような人を助けるロボット、人を癒すロボットが作りたいと言っていた。そこで、高森先生(現・国際レスキューシステム研究機構理事)、田所先生(現・同研究機構会長)とともにレスキュー工学の分野を立ち上げた。災害対応として、工学の分野は何ができるのか考え、本当に役に立つものをつくらなければならないと思っている。
 工学でできることは限られている。人の命を救う医学を、工学で支援できないか考えている。競基弘賞も数年前から心理や医学の部門を立ち上げている。
 競君は生きていれば50歳過ぎ。彼の思うとおりに行くかはわからないが、人を助けるような、あるいは人を癒すようなロボットを作っていきたい。

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(写真:震災発生時や、競さんについて話をする松野さん)

 今年度は、「学術業績賞」、「技術業績賞」、「医学部門業績賞」、「心理学部門業績賞」、「IEEE IROS 2022 Best Paper Award on Safety,Security, and Rescue Robotics in memory of Motohiro Kisoi」、及び「奨励賞」の表彰が行われた。学術業績賞には、「高強度化学繊維ロープの機械特性の解明と超長尺多関節ロボットアームへの適用」という研究で、東京工業大学の遠藤玄教授が選ばれた。また、東北大学タフ・サイバーフィジカルAI研究センター・フィジカル研究部門助教の渡辺将広さんが「ドローン輸送が可能な小型瓦礫内探索ロボットの観察」で技術業績賞を受賞した。

 研究機構は、2014年から5年に一度、医学部門業績賞、心理学部門業績賞の表彰を行っている。今年度は、新型コロナウイルスも災害であると捉え、感染症やメンタルケアの専門家を対象に受賞者が選出された。
「災害医療の手法を用いたCOVID-19のクラスター発生医療機関・福祉介護施設の支援手法の実践と普及による早期収束と防ぎうる死亡や悲劇の低減」で、国立病院機構本部DMAT事務局 新興感染症等対策課 専門職の赤星昂己さんが医学部門業績賞を、「日本社会における災害への心理職による継続的な支援枠組みの生成」で九州大学大学院人間環境学研究院講師の野村れいかさんが心理学部門業績賞を受賞した。

 赤星昂己さんは、「新型コロナウイルスでも、自然災害と同じような対応が求められる部分があった。」
その他に、IEEE IROS Best paper award SSRR in Memory of Motohiro Kisoiには、Eugenio Cuniatoさん、Nicholas Lawranceさん、Marco Tognonさん、Roland Siegwartさんが、奨励賞には大阪電気通信大学高等学校のチーム『DMS―誇』、産業技術短期大学 ロボットプロジェクトのチーム『TASUKE隊』、京都大学大学院工学研究科の冨山峻さんが選ばれた。表彰式で、受賞者はそれぞれの研究についての発表と、受賞に対する感謝の言葉を述べた。

(画像:表彰式での発表の様子)

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