７月９日、六甲台第１キャンパスの出光佐三記念六甲台講堂で、神戸大ラグビー部の創部１００周年記念式典が開かれ、現役部員のほか、ＯＢら関係者約２５０人が参加した。神戸大医学部ラグビー部に所属していた山中伸弥京都大学教授がビデオメッセージを寄せた。式典後には場所を移して祝賀会も開かれ、参加者たちが交流を深めた。＜尾畑陽貴、蔦旺太朗、塚本光＞

　式の冒頭では、創部１００周年に立ち会うことが叶わなかった物故者を追悼して黙祷が行われた。続いて田中計久ＯＢ会長が挨拶し、大村直人副学長、坂井信也校友会会長や山中伸弥教授ら来賓が祝辞を述べた。

田中OB会長「伝統と勝利へのこだわりをしっかりと受け継ぐ」

　田中計久ＯＢ会長は、「神戸大ラグビー部は１００年の歴史の中で幾多の関係者にお世話になっております。関係者の皆様に厚く御礼を申し上げるとともに、忘れてはならないのはラグビー部の歴史を刻んでこられた先人ＯＢの皆様でございます。」と述べ、神戸大ラグビー部の歴史を振り返った。
　ＯＢ会長の話によると、神戸大学ラグビー部の歴史は、１９２３年に神戸高等商業学校の陸上部員がラグビー部を創部したことに始まるという。神戸高等商業学校は、その後大学に昇格し、戦後には総合大学に拡大、発展するとともに、ラグビー部も様々な学部生からなる体育会系運動部としてその歴史を築いてきた。２００３年には神戸大学と神戸商船大学が統合したことに伴い、両大学ラグビー部は一つになり、現在では神戸商船大学の流れを汲む、海洋政策科学部の学生も多くラグビー部に所属している。２０１８年には六甲台キャンパスから、海洋政策科学部のある深江キャンパスへとホームグラウンドを移しており、創部９５年目の節目の年には、その深江グラウンドの天然芝生化が完成した。
　ＯＢ会長は、「栄光の時代の伝統、勝利へのこだわりはしっかりと受け継いで参ります。勝っても負けても対戦から学び、鍛錬を続ける姿勢は変わっておりません。努力の積み重ねにより心技体を鍛えて逞しく成長する、そんな若者を社会に送り出すことが、神戸大学ラグビー部の、社会に対する使命です。」と挨拶を締めくくった。

　続いて登壇した大村直人副学長は「神戸大学は設立以来、真摯、自由、協働精神で社会に貢献する人材を育成することを目指してきました。この精神はラグビーにおける、品位、情熱、結束、規律、尊重の精神とも重なるものではないでしょうか。」と述べ、スポーツを通じて育まれる精神の重要性を強調した。

　プロ野球阪神タイガースのオーナーを１２年間務めた経歴も持つ、神戸大学校友会の坂井信也会長は、「今まで隠しておったのですが、本当に好きなスポーツはラグビーでございます。」と打ち明け、会場は笑いに包まれた。「コンタクトを恐れずに左右前後に展開していくラグビーは、闘争心、情熱の発露そのものである一方で規律や品位によってゲームがコントロールされています。」とラグビーの魅力に触れ、「ラグビー部のさらなる発展を期待しています。」と述べた。　

関西協会の萩本会長「神戸大が国立大目指すラガーマンの受け皿に」

　関西ラグビーフットボール協会の萩本光威会長は、「今高校ラグビーは少子化の問題やクラブ活動の在り方の変化によって危機的な競技人口の減少に直面しています。神戸大ラグビー部には、国立大学進学を目指すラガーマンの受け皿として、次の１００周年に向けて、さらに魅力のあるラグビー部へと進化してもらいたいと思っています。」と語った。　

山中伸弥教授「ラグビー経験が人生で非常に重要な役割果たした」

　２０１２年にノーベル生理学賞・医学賞を受賞した、京大の山中伸弥教授もビデオメッセージの形で１００周年を祝った。神戸大医学部出身の山中教授は学生時代、医学部ラグビー部に所属し、大倉山の下宿と六甲台グラウンドを往復し、練習に明け暮れる生活を送っていたという。また、結婚した際には、一緒にプレーした仲間から寄せ書きをしたラグビーボールを贈られ、それが宝物であると話した。
　さらに、ラグビーが自分の人生において非常に重要な役割を果たしたエピソードを語った。山中教授が非常に高名な研究者の最終面接を受けることになったとき、「あんたの強みは何や。」と聞かれ、教授は「ラグビーで培った体力と根性には自信があります。」と答えたそうだ。「そんなこと聞いてへん。」と言われたものの結果は合格。その研究者のもとで働けたことが、のちのｉＰＳ細胞の発見にもつながったという。

伊藤主将「Bリーグ上位進出へ、全力で取り組む」

　来賓祝辞の後には、現役部員代表として伊藤一真主将（国人４年）が決意の言葉を述べた。主将は「Ｂリーグの上位リーグ進出」を今年の目標に掲げ、「チームは当初思っていた方向には進んでおらず、戦績を見られて心配に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私はこの目標を微塵もあきらめておりません。私には頼れる仲間や後輩、そしてＯＢの方々など関係者の頼もしい支えがあります。素晴らしい環境にも恵まれております。残り少ない期間ではありますが、部員一同全力で取り組んでまいります。」と述べた。

　主将の決意表明の後、応援団と応援団チアが舞台上でエールを贈った。披露されたのは「燃ゆる思い」「白波寄する」「商神」の三曲で、神戸大の伝統として歌い継がれている応援歌だ。

　さらに、日本ラグビー学会で理事を務める高木應光さんを講師に招き「ラグビー歴史のたび」と題した特別講演も催された。高木氏は、ラグビーにまつわる数々の歴史的言説や逸話をスライドショーを交えて紹介し、１９２２年にはＫＲＡＣ（神戸外人クラブ）と旧制第三高等学校（現在の京大総合人間科学部、岡山大医学部）が英国皇太子を迎えて「プリンスマッチ」を行ったことなど、神戸とラグビーの関わりについても触れた。

　式典の終わりには参加者約２５０人がアナウンスによる誘導で位置につき、全員で記念撮影を行った。

祝賀会で現役部員とOBが交流　伝統の応援歌斉唱

　式典終了後、場所をアカデミア館のＢＥＬＢＯＸ食堂に移動して創部１００周年記念祝賀会が行われた。料理や飲み物が振舞われ、現役部員とＯＢら関係者が交流を深めた。有志により、現役時代の集合写真を卒業年ごとにまとめたスライドショーも製作され、神戸大でプレーしていた時代を懐かしむＯＢもいた。
　祝賀会に参加した伊藤一真主将は「普段かかわりのないような方と話すことができて、とても良い機会でした。他校からも代表が来てくれて、ラグビー部同士のつながりを実感しました。話した内容として一番多かったのは、どうやって新入生を集めたかですね。少子化であったりラグビーは観戦するものというイメージが定着したりして、ラグビー部に新入生が入りにくくなっているみたいです。」とコメントした。　

 　医学部ラグビー部のＯＢで、現在は神戸大医学部医学科に所属する青井貴之教授が「次の１００周年記念講演ではどのようなことが話されるのか、そのイメージを持つことが大切だ。次の１００周年までに、再びラグビーのワールドカップが開催され、現役部員は社会の中心となる立場で開催をけん引してくれると思う。先輩方におかれましてはご経験を下の世代に伝えて、支援をすることで、日本や世界のラグビーが発展していくその中に、神戸大学のラグビー部というものが居続けらればと願っています。」と中締めの挨拶を行った。会の終わりには、参加者一同が円になって肩を組み、神戸大の応援歌「商神」を歌った。

以下は祝賀会に参加した来賓のコメント　

　田中計久ラグビー部ＯＢ会長：「１００周年を迎えられて、先人のＯＢへの感謝の気持ちでいっぱいです。選手たちには、１００年続いた神戸大ラグビー部の歴史という重荷を背負いながらも、日々のクラブ活動や神戸大の伝統を楽しんでほしいですね。」

　関西ラグビーフットボール協会の萩本光威会長：「１００周年の催しはとても盛大で、大学など関係各所のリスペクトによって成り立っているのだと実感しました。激しい争いを繰り広げつつ、フェアプレーを心掛け、互いに尊重し合あえることがラグビーのバリューであり、こうしたことは社会でも役立つと思います。」

　日本ラグビー学会理事の高木應光さんにはラグビーの研究を始めた経緯について聞いた。高木氏：「１つ２つ上の先輩のことは知っているがそれより前の人のことはあまり分かりません。自分たちの部活を昔にさかのぼって考えたとき、誰が、どんな関係で設立し、誰に教えてもらっていたか、ということが気になり始め、ラグビーの歴史そのものについても興味をもちました。芦屋高校などで先生をし、ラグビー部を指導する傍ら、自分でもラグビーに関する書物などを読んで研究しました。」

了