ChatGPTの普及と学生への影響 「クリエイティブな活用を」

 神戸大は、2023年4月にChatGPTをはじめとする生成AIの利用に関する注意点をサイト上で発表した。2022年11月に誕生したChatGPTは、急速に普及し、日本の学生にとっても身近な存在になりつつある。ChatGPTの仕組みや利点、学生が利用する際の注意点などについて、村尾元教授(国際文化学研究科)に話を聞いた。ChatGPTは、どのような場面で利用すると有効なのだろうか。<奥田百合子、笠本菜々美>

(写真:村尾教授。神戸大学の研究室で。2023年7月18日撮影)

Excelと同じ「時間短縮ツール」
記者)先生はChatGPTにどんな印象をお持ちですか。
村尾教授(以下、敬称略))社会的インパクトとしては、Googleの検索エンジンのときのように、新しいものが出てきたような印象です。一方、ツールとしては、Excelのようなものに近いと思います。Excelは計算ソフトですが、計算は手計算でも可能です。しかし手計算よりも電卓、電卓よりも数式やExcelの方が、同じ計算をより早く行うことができます。ChatGPTも、同じことをするのに、人の行うステップにかかる時間を短縮できるという点で、便利をもたらすものだと考えています。

ChatGPTは「正しい」のか
記者)ChatGPTは、インターネット上にある情報を寄せ集めて、私たちが入力した質問に答えてくれるものと聞いたことがあります。
村尾)情報の「正しさ」というのは難しいのですが、ある時点でインターネット上に存在した情報を使うので、その時点で存在したという意味では正しいと言えます。しかし、文章自体はインターネット上の知識をつなぎ合わせて作るので、結果としてできあがった文章は嘘の可能性があります。検索エンジンではないので、ChatGPTが学習していない情報や、自分がわかっていないことをChatGPTから引き出すことはできません。分かっていることを整理してもらって使う。ChatGPTは何でも情報を引き出せる「玉手箱」ではありません。

続く単語の推定で、質問に応答
記者)ChatGPTは私たちの質問に対して、どんな仕組みで答えているのでしょうか。
村尾)ChatGPTの仕組みは、ネット上にある情報を学習しておいて、文章を入れると文章につづく単語を推定するというものです。新しい情報を得るということに使えるツールではありません。

村尾)たとえば、人間だったらいくつかの単語は予想できますよね。「今後ますます天気が…」と言われたら、「荒れる」「回復する」など。ChatGPTも同じことをしています。「…」には何がよく当てはまるのか、ネット上にある膨大な数の「ますます」に続く単語を学習し、与えられた文章に続く単語を推定しているのです。

ChatGPTがもたらす効率化
記者)ChatGPTが学生に普及すると、どのような影響があるでしょうか。
村尾)メリットは、学生にとっても、研究者にとっても、論文を読む時間を短くできるという点だと思います。ChatGPTは文章を要約することができるので、論文1本あたりにかかる時間が短縮でき、より多くの論文を読むことができます。

記者)では、ChatGPTを使う上で注意すべきことはありますか。
村尾)まず文章の推敲に利用する場合、ChatGPTは、ある程度のクオリティに到達するまでの時間を、人間が自分で行うよりも短くするものにすぎないという点です。自分の考えのクオリティを上げるものではありません。

記者)ChatGPTは、時間短縮ツールで、自分の考えや文章の質を上げるものではないということですね。
村尾)ゴールにたどりつくまでの時間が短くなるのであって、自分で良いレポートを書く力がないとGPTを使っても良い文章は書けないと思います。ただ、自分で文章を一から書き、推敲するのは大変ですよね。ある程度、ChatGPTに構成を整理してもらってから推敲するほうが、早く良い文章が書けると思います。

ChatGPTの利用には、ある程度のスキルが必要
記者)大学において、ChatGPTは規制される必要はあるでしょうか。
村尾)ChatGPTは上手く使うことで、仕事を効率的にこなすことができます。社会でもどんどん活用が進んでいくし、ChatGPTを上手く使う力は必要になっています。ならば、ChatGPTの使い方を大学でも学んでおくべき。この点で、クリエイティブな利用を求める大学の対応は良いのではないかと思います。

記者)小学校の読書感想文におけるChatGPTの利用が問題になっています。
村尾)小学生は文章を書くスキルが身についていないので、その段階では、ChatGPTが生成した文章を整理することができません。経験の少ない小学生だったら、ネット上のいろんな情報を持っているChatGPTの方が良い文章かけてしまう。これは、大学生にとっての卒論も同じで、論文をたくさん読むなどして、論文を書く力を身に着けてからChatGPTを使う必要性があります。

人間とAIが共存することは可能ではないか
記者)AIが進化するといずれ弁護士や裁判官が不要になるかもしれないという話を聞きました。このような可能性はあるのでしょうか。
村尾)相手がロボットやAIの方が相談しやすい人がいることも実験で判明していますので、AIを代わりに使おうと思って使えなくはないと思いますが、AIからの回答で自分の人生を左右されることは、相談者の心情的に厳しい場合もあると思います。

記者)感情がそんなに重要でない分野ならAIの利用が進んでいく可能性は高いということですね。
村尾)AIが発達しても、人と人の部分(や繋がりといった部分)はなくならないのでは。例えば、将棋や囲碁はAIの方が強いが、相手のミスを誘発するなどといった「人間だからこそ」みたいな手もあります。また、人間が戦う面白さという感情的な部分もあり、こういったところでは、人間とAIは共存できるのではないかと思います。

 ChatGPTを使うにあたっては、適する場面、適さない場面がありそうだ。論文の要約や文章の添削など、ChatGPTの得意分野を活かすことが、効率的な学習につながるのではないだろうか。

▽参考記事
神戸大、生成AIの利用に注意喚起 ChatGPTなどめぐり | 神戸大学NEWSNET委員会 (kobe-u-newsnet.com)

WEB特集 ChatGPTまるわかり”異次元”/NHK(2023年4月11日)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2303/17/news200.html

AIプロ集団から見た「ChatGPTの歴史」 たった5年で何が起こったのか/ATメディア(2023年3月17日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230411/k10014034961000.html

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