繰り返される「迷惑行為」 試されるリスク管理①

 3月中旬、神戸大非公認バドミントンサークルBADBOYSが旅館の備品などを破壊している様子の画像や動画がX(旧Twitter)上で拡散された。それらの画像や動画は、もともと当該団体所属の学生がインスタグラムに投稿したものだった。学生は、なぜ一般的に見て不適切な行為をSNSに投稿したのか。また、自分が巻き込まれないためには、どう行動すればよいのか。ニュースネット委員会は「迷惑行為」について研究している、金城学院大学の北折充隆(きたおり みつたか)教授にインタビューを行った。<奥田百合子、蔦旺太朗、佐藤ちひろ>

(写真:Zoom取材に応じる北折充隆教授。2024年3月28日22時撮影)

▼500の3乗を想像できるか

北折教授は、BADBOYS所属の学生が不適切な行為をSNSに投稿したことに関して、投稿者がネットワークの狭さや拡散の怖さを認識していないことを指摘する。

 「今の大学生のネットワークって500の3乗くらい。一人一人が500人に繋がっていて、またその500人一人一人が500人に繋がっている。500の3乗と考えると、日本の人口とほぼ一緒になる。このようにして、投稿内容が日本中に広がっていく。誰でも、高校の同級生、大学の同級生と考えていくと、(SNSのフォロワーは)500人くらい余裕で到達する」「今の人たちは社会の狭さというものを理解していない。500人もいないとしても、23の6乗は1億4千5百万くらいになる。6回媒介したら日本中いけちゃう。ネットワークの狭さを理解し、第三者が目にする可能性を考えていたら、ああいうアホなことをさらしたりできない」と話し、投稿者がネットワークの狭さ、広まる怖さを理解していないことが大きな原因だと指摘した。

(画像:インターネット上で、情報は「500の3乗」で拡散されていく)

▼「みんなでやっちゃえ」「自分は大丈夫」

 なぜBADBOYSは集団で旅館の備品や天井の破壊行為をしてしまったのか。北折教授によると、主に二つの要因があるという。

 一つ目は、そのような不適切行為が内輪の結束を高めること。北折教授は、「やっていることはとても不条理だが、みんなでやることで、集団凝集性(内輪の結束)を高める効果があったのだと思う」と述べ、中学高校の運動部でしばしば取られる過度に厳しい指導を例に挙げた。「皆さんも経験があると思うが、中学や高校の理不尽なしごきって、そんなことやったら普通にスポーツ嫌いになるやんってなるけど、むちゃなことをみんなでやることが美化されて、集団の結束力が高まるという機能が実際にある。BADBOYSでも、やっちゃえという雰囲気になっていて、みんなでわーっとやることで集団の結束が高まるという側面があったのだろう」。

 二つ目は、自分は事件や事故に巻き込まれないという思い込み、「日常性バイアス(正常性バイアス)」。北折教授は、「誰でも自分は事件や事故に巻き込まれないという思い込みがある。それがなかったら外なんか怖くて出歩けない。BADBOYSの悪ノリも今まで続いてきたと思うが、『今まで問題なければ自分たちも大丈夫』という日常性バイアスがかかってしまっている」と指摘し、「なので、本当にやばいという自覚がないままかなりの悪ノリが続いてきたのが、今回ネットワークから漏れたことで拡散されてしまったというメカニズムなのではないか」と話した。

▼心の奥では「やっていいのかな」

 では、破壊行為などをやっている本人たちに罪悪感はあるのだろうか。北折教授によると、「おそらくは『やっていいのかな?』と思っているが、みんながやっていると、『やっちゃえ!』という雰囲気になる」。これは没個性化と呼ばれる、自分がばれなければいい、誰がやったか分からないからいいやといった心理で、例えば、デモの暴徒化などにもこの心理が働いているという。

 また、北折教授は「やっていいことか悪いことかを神戸大学の学生が分かっていないとは思えない。恐らくひとりひとりに聞いたらあれをやっていいとは誰も言わないはず。あの場には、あれが許されるような雰囲気が確かにあったのではないか」と付け加えた。

▼62人の合宿で、誰も止めなかったのか

 神戸大によると、合宿には卒業生1人を含む62人が参加していた。かなりの大人数が参加する合宿で、誰も破壊行為を止められなかったのか。北折教授は、「社会心理学でいうところの同調圧力がかなり強く作用していたんだろうと思います。僕もあの場にいたら『やめろよ!』って止めることは中々できない」としつつ、「場の空気を乱すということの方がまずいという意識がどうしても働いてしまう」と話した。

▼駄目だとわかっていても…制止は難しい

 もし、自分があのような不適切行為が行われている現場に居合わせた場合、どのような行動を取れば良いのだろうか。

 教授は「これは僕も正直分からないですね。僕がもしあの場にいたら、まず(動画に)うつらないところにいる。それから、『やばいって、やめとけ』という声が入るようにはするでしょうね。何かあったときに一緒に盛り上がって楽しくやっていたということだけは思われたくないなと思うので。それぐらいのことは言うと思いますけれども。体をはって止めるなんてことは、自分はできないなと思います。それは心理学者から見てもそう思うので、何も知らない学生さんが割って入るなんてことは、よほど空気の読めない人でなければできなかったんじゃないかなと思います」。

▼このような悪ノリはいかにして醸成されるか

 「いくつかの記事を見てみたんですけども、悪ノリ、無茶ぶりはずっと続いているらしいですね。そういう意味では、そういう(過度な悪ふざけ)のが好きな人たちが濃縮されていったというような形なのかなという印象を持ちました。若いうちは許されるとか、受験が終わった解放感みたいなのが悪い形で作用しちゃって残っていったのかなと僕は思ったりはしましたね。そういうのを『やべえっ』て思う人はサークル行くのやめていたりするんじゃないのかな」。

※後編「繰り返される『迷惑行為』 試されるリスク管理②」はこちら。

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