阪神・淡路大震災から３０年。西宮市のマンションが倒壊して亡くなった、当時法学部２年の加藤貴光さんの所属していたＩＳＡ国際学生協会の仲間らが「語る会」を開催。母・りつこさんを囲んで、故人の思い出を語りあった。＜取材班＞

（写真：「加藤くん◯語る会」に集まったサークル仲間ら。2025年1月18日午後、神戸市中央区八幡通で）

　加藤貴光さんは、震災当時２１歳。広島県立安古市高校を卒業し、１年浪人して、木村修三教授のゼミに入りたいと念願の神戸大法学部に入学した。単身赴任の父親と、西宮市の夙川沿いの築２５年ほどのマンション２階に住んでいた。

（写真：Ｉ.Ｓ.Ａ.の仲間と写真に収まる加藤貴光さん＝左から２人目。震災前年の1994年夏撮影。一部画像を加工しています）

　最初にＥＳＳに入部。２年生から全国組織のＩ.Ｓ.Ａ.国際学生協会に入部した加藤さん。
　今回は、Ｉ.Ｓ.Ａ.の仲間らが呼びかけて、サークルの同期や先輩・後輩、母・加藤りつこさんの知人ら約５０人が、神戸市中央区磯上公園近くのレストランに集った。

（写真：スピーチで加藤貴光さんのエピソードを語るＩ.Ｓ.Ａ.の仲間。東京や名古屋からも駆けつけた）

　会場では、貴光さんの人柄や、国連職員を目指していた熱心な活動ぶり、年齢よりも落ち着いた風貌にまつわるエピソードなどを参加者が披露した。
　震災直前の１９９４年１２月に神戸で行われたＩ.Ｓ.Ａ.の大会で撮影されたビデオが上映され、神戸支部のリーダーとして仲間と語り合う加藤さんの姿や声が流れると、今は５０歳前後で会社の要職に就いたり、子育てを終えたりしているサークル仲間から、「みんな若いなー」と当時を懐かしむ声が上がった。

　神戸大ＥＳＳで１つ上の学年だった吉田奈津子さん（教育学部１９９６年卒）は、スピーチで、「貴光くんは優しくて暖かくて、お父さん的存在だった」と話す。「なんで、（震災で死んだのが）貴光くんだったのか。私ではなかったのか。生かされている重みを受け止めきれずにいたこともあった」という。いまは、加藤さんに恥ずかしくない生き方をしたいと思っていると会場に語りかけた。

　加藤さんが亡くなった後、母・りつこさんと母親同士の交流を続けてきた松本久子さん。震災翌日、同じＩ.Ｓ.Ａ.で活動していた娘から、「お母さん、加藤くんが死んじゃった」と、現場近くからかけてきた電話の声を今でも覚えていると、３０年前の様子を静かに話す。
　Ｉ.Ｓ.Ａ.神戸支部の一期上で商社勤務の武村良平さん（経営学部１９９７年卒）は、西宮市の安井小学校の遺体安置所に駆けつけた時、母・りつこさんの横に、パジャマのまま横たわっていた加藤さんの姿を覚えている。顔は紫色で歯が欠けていた。冷たい部屋だった。
　武村さんは、これまでの人生で、「自分が与えられた使命はなんだろうと考えさせてくれる、重要な人の一人です」と加藤さんの存在を語る。

（写真：あいさつする貴光さんの母・加藤りつこさん）

　最後にあいさつに立った、加藤りつこさんは、「あらためて（息子は）幸せな学生生活を送っていたんだなと思う。みなさんと出会えてすごくうれしい。ただただ、ありがとうというだけです」と、込み上げてくるものをこらえながら話した。
　りつこさんは、閉会後のメディアのインタビューには、「願わくば、あのまま命あってみんなとつながっていたら、もっともっと幸せだったろう」と打ち明けながらも、「みんなの心の中に貴光は生かされている。みんなが生きている間、貴光も生きている。だから仲間のみんなにはしっかり生きてほしい」と、噛みしめるように答えた。

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　「私たちの子どもが、加藤くんの年齢になってしまった」と微笑んだのは、実行委員の一人で、Ｉ.Ｓ.Ａ.の神戸支部の同期・住吉亮子さん（神戸女学院大卒）。ＳＮＳやこれまでの会合の記録、年賀状などをもとに参加を呼びかけたという。
　同じくＩ.Ｓ.Ａ.の仲間の一人で、松本久子さんの娘の上島裕美子さんは、「加藤くんが私たちに与えてくれたことをシェアしたいと思ってこの会を企画した」、「きょうは、これだけの人が加藤くんに想いを寄せていたんだということを改めて知ることができてとてもうれしい」と語った。

【関連記事】連載『慰霊碑の向こうに』13　故・加藤貴光さん（当時法学部2年）＝母・りつこさんの証言（2022年1月アップロード）：https://bit.ly/3TSf4SK

【関連記事】あなたのことを忘れない　神戸大学四十四人への追悼手記（1996年1月17日付紙面から）：https://kobe-u-newsnet.com/newsnet/sinsai/tokusyu/tuit_top.htm

了