午後2時。六甲祭が賑いを見せる一方で、国文キャンパスには人気が無い。「今年はお酒を提供していません。持ち込み不可」と書かれた立て看板ばかりが目立つ。設営中のステージ前では、ちんどん屋サークル「神大モダン・ドンチキ」が近隣住民の親子連れを相手に楽器を鳴らしていた。見守っていた厳夜祭実行委員の1人がこぼした。「夜の祭りを昼にやってもねえ」。
しかし校舎内の模擬店にはお客の姿があった。昨年は居酒屋やバーが中心だったが、今年はカフェや食事処となった店が多い。六甲祭の屋台では難しい複数のメニュー提供や、お客がくつろげるテーブルが充実している。家族連れの客は「ゆっくり座る場所が欲しかった。どの店も落ち着いた雰囲気で私たち年輩にも合っているのでは」と満足げだった。
午後4時。六甲祭からの学生の移動が徐々に始まっていた。実行委員は全身黒タイツ姿で応援団や放送委員会のステージに登場し、厳夜祭を宣伝。国文キャンパスへの移動通路前ではビラを配布する姿も見られた。午後5時過ぎにはステージライブが始まり、恒例のアイドルライブの頃にはステージ前の大歓声が六甲台まで響いた。模擬店にも夕食メニューを求めて行列ができ、活気を帯びてきた。
模擬店の学生たちには厳夜祭に出店し続ける理由がある。丹波篠山で活動する4つの農業サークルによる「ささやま家」。店長の赤松孝亮さん(農・3年)は「オールナイトもお酒も無くなって『これは厳夜祭なのか』と最初は思った。でも篠山の旬の食材を学内でPRする場は、自由に料理を出せるこの祭りしかない」と話す。お客にマジックを披露する「TRickers cafe」の大里太一さん(理・3年)も「教室を丸ごと借りてマジックができる。個々の団体の色が出せるのは厳夜だけ」と話す。
また「六甲祭は在学生が在学生にアピールするための祭り。厳夜は学生以外も楽しめる」と話すのは、カフェを出店した神大モダン・ドンチキの島崎真央さん(文・3年)。OB・OGや地域住民が、学生とのコミュニケーションを取りやすい場にすることを心掛けている。夫と8歳の子どもを連れた近隣在住の女性は、6年前から毎年厳夜祭に来ている。「夜に行ける学祭は少ない。昼間とは違う学生独特のノリも見ていて楽しい」。模擬店ではしっぽり語り合い、ステージや暗黒闘技場では大騒ぎ。大人と子どもの中間地点にいる学生の内面を知る場だという。
午後8時。酒の匂いが無いことを除けば、厳夜祭は至って例年通りの雰囲気となっていた。9時からのビンゴ大会で盛り上がりは最高潮に達したが、今年はここまで。学生の1人は「物足りなさもあるけど、飲み明かすこともなく健康的で今年は今年で良かった」と話し家路を急いだ。10時までに全来場者がキャンパスを後にし、夜の宴は幕を閉じた。
大学側との交渉を重ね、「六甲祭の関連行事として」開催できた今年の厳夜祭。しかし主催の夜間主学生が全員卒業してしまったため、大学側が3年前から提示する「実行委員会メンバーに夜間主生がいること」という開催条件を満たせない。今年の特例が来年も認められるかは不明だ。実行委員長の池田啓真さん(経営・2年)は「六甲祭とは別の魅力を来場者に感じてほしい」と話すが、やはり酒類提供とオールナイト開催の中止は客足に響く。厳夜祭に行かなかった学生の1人は「六甲祭と時間も被っているならわざわざ行く気にならない。何よりお酒が出ないと『六甲祭だけでいい』と思ってしまう」と話す。実行委員の1人も「厳夜祭に来るのは基本的に上回生。祭りに興味が無い学生は今後間違いなく増える」と危機感を募らせている。
祭りの灯は来年どのように輝くのか、まだ誰にも分からない。
●厳夜祭「超会議」も白熱
厳夜祭終了後も有志の学生やOB・OGが大学付近のカフェに集まり、来年以降の開催について翌朝まで意見をぶつけ合った。「教室丸ごと使える模擬店をビジネス実践の機会としてPRできないか」「もはや学外で自主的に厳夜祭を開いていけばいいのでは」など、さまざまな声が上がった。参加した学生の1人は「これまでの形態にこだわりすぎて偏屈になってもいけない。夜にやる自由な祭りという基本は変えずに、新たな魅力を考えたい」と話した。
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